このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
4.サービスの管理
第1章で、サービスの提供は、フロントヤードとバックヤードの連携で行われることを述べました(第1章参照)。
サービスの管理では、次のように、フロントヤードとバックヤードで管理の方法を分けることがポイントになります。
◇フロントヤードとバックヤードの仕事の内容を明らかにする。
◇フロントヤードの仕事は、教育・訓練及び力量に基づき、従業員にエンパワーメントを与え、顧客満足の達成を図る。
◇とっさの機転と判断は、品質方針、品質目標を頼りとする。
◇バックヤードの仕事は、仕事を終えたら間違いがないかどうかを確認する。
◇不適合(問題が発生したとき)には、速やかな処置をとる。
サービスの提供における役割は、直接、顧客に接してサービスを提供する業務(フロントヤード)と顧客には見えないところでフロントヤードの業務をバックアップする業務(バックヤード)に分けることができます(図5参照)。
ホテルで例えると、フロントヤードは、フロント、ベルスタッフ、ウェイター、ウェイトレスが携わる業務であり、バックヤードは、客室清掃、営業企画、調理人が携わる業務です。製造業であれば、フロントヤードが営業・販売業務に、バックヤードは製造、購買などの業務に相当します。
(1)フロントヤードの業務の管理
フロントヤードの業務では、顧客に接して業務を行い、サービスを提供すると同時に消費されてしまいます。従って、顧客に提供する前に、問題があるかどうかのチェックができません。1回の失敗が顧客の不満足に繋がり、決定的なダメージになることも少なくありません。これをカバーするためには、従業員の教育・訓練、力量が重要であり、これに裏付けされたエンパワーメント(自らの判断で活動できる裁量権)を従業員に与えることが必要です。十人十色の顧客に対し、満足を提供するためには、従業員のとっさの機転と判断が何よりも重要といえます。
ここで、権限を与えられた従業員が判断するための拠り所となるのが、品質方針、品質目標です。従業員は、会社がどの方向を目指しているのか(品質方針)、何を大切にしようとしているのか(品質方針)、そのために従業員自身は何をなさなければならないのか(品質目標)を頼りに、とっさの判断をするのです。
第5章中央製乳(株)の事例で、販売部長が部員に品質方針と品質目標を暗記させた意図は、ここにあります。
(2)バックヤードの業務の管理
バックヤードの業務では、直接顧客と接して業務を行うことはないので、顧客にサービスを提供する迄に、間違いがないかどうかをチェックします。ISO 9001では、このようにチェックすることを監視といいます。
(3)不適合(問題が発生したとき)の管理
不適合とは、顧客に明示していること、暗黙のうちに了解されていること、義務として要求されているニーズや期待に応えることができないことをいいます。
フロントヤードの業務では、サービスを提供すると同時に消費されてしまいますので、不適合の処置は、サービスを提供した後にしかできません。このときの処置として次のようなことが考えられます。
① サービスを停止する。
② 顧客に了解を得て、提供したサービスをやり直す。
③ 代替え方法を顧客に申し出る。
また、顧客からのクレームの受付、処置をする手順は、当然、作成しなければなりません。
一方、バックヤードの業務では、顧客に当該のサービスを提供する前に不適合を発見できれば、不適合の状態を適合の状態にすることができます。
5.サービスの設計・開発
ISO 9000:2005では、『設計・開発』の定義を次のように述べています。
要求事項(3.1.2)を、製品(3.4.2)、プロセス(3.4.1)又はシステム(3.2.1)の、規定された特性(3.5.1)又は仕様書(3.7.3)に変換する一連のプロセス。
(注) ( )内の数字は、ISO 9000:2005で定義されている番号を表します。ちなみに、『設計・開発』は、3.4.4で定義されています。
サービスの設計・開発では、次のことがポイントになります。
◇サービスの設計・開発は、『無形』のサービスを『形あるもの』にする。
◇サービスの設計・開発は、特に、フロントヤードの業務に重点を置く。
◇サービスの設計・開発で考慮する項目は、サービスマーケティングの8Pを参考にする。
サービスが『無形』であるという特徴を考えると、それを形のあるものにしておかなければなりません。
サービスの設計・開発は、新たなサービスを始める前に、予め、必要な要素を洗い出し、十分に検討した上で、その手順を作る活動です。
演劇では、演技は俳優の力量に依存するところが大きいのですが、筋書きがなくては、殆どの芝居は成り立ちません。演劇に例えると、筋書きを記した台本作りが、サービスの設計・開発といえます(図7参照)。
サービスの設計・開発は、フロントヤードとバックヤードの業務が対象ですが、バックヤードの業務は既存の業務を適用できることが多いので、顧客との接点があるフロントヤードの業務に、特に重点を置きます。
サービスの設計・開発で、考慮する項目は、サービスマーケティングの8Pが参考になります。サービスマーケティングの8Pとは、頭文字にPがつく8つの言葉で、マーケティングの大切なコンセプトを表すものです。有形財の4Pについては、以前から広く知られていますが、これにサービスの特徴を加味して作られたのが、サービスマーケティングの8Pです(図8参照)。
6.作業手順の功罪
読者の皆様は、『マックジョブ』という言葉をご存じでしょうか。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』では、『マックジョブ』を次のように説明しています。
マックジョブとは、低賃金、待遇劣悪(長時間労働、異動転勤当然)、マニュアルに沿うだけの単調で将来性のない仕事の総称。一般に、ファーストフード店などの創意工夫を必要としない機械的な動作を繰り返す業務を指す。『マック』はハンバーガーショップのマクドナルドにちなむ。
これは、2007年3月にオックスフォード英語辞典に新語として掲載され、一般の知るところとなった言葉です。この定義に対して、マグドナルド側からは、『マックジョブ』という言葉を、『刺激にあふれ、働きがいがあり、真のキャリアアップ機会と一生役立つスキルを提供する仕事』と、変更するように申し入れをしているようです。
この両者のやりとりはさておき、ここでは、作業手順(業務マニュアル)に沿った仕事のメリット及びデメリットについて考えてみたいと思います。
筆者は、仕事柄、全国に行く機会があり、ゆっくり食事をする時間がないときや軽食をとりたいときなど、ハンバーガーショップを利用することがあります。
大きな規模の企業では、ハンバーガーショップのチェーン店は、日本国内だけでも店舗は何千店、そこで働く人たちは十万人を超える規模になります。これだけ沢山の店で、沢山の人が働いているにも拘わらず、私たちが、どこの店でも変わらないサービスを受けることができるのは、しっかりとした作業手順(業務マニュアル)と従業員教育に依るところが大きいと思われます。
しかし、どこの店でも変わらないサービスが受けられる一方、これまでに、期待通りではあっても、期待を超えたサービスに出会ったことが、筆者には殆どありません。
作業手順(業務マニュアル)に基づく仕事は、ばらつきを小さくし不適合の発生を防止します。しかし、そこからは、顧客の期待以上のサービスは生まれません。顧客を観察し、顧客との会話により何かを感じ、とっさの機転、判断により対応する。そのとき、顧客の期待を超えるサービスが提供できるのではないでしょうか。最近では、このような対応をするハンバーガーショップがあると聞きます。当然のように、少し足を伸ばしても、わざわざ訪れるお客さんが多いようです。
7.本章のまとめ
本章では、サービスの特徴をQMSに活かすポイントのいくつか述べました。これが全てではありませんので、またの機会があれば改めて説明したいと思います。本章の最後に、この章で述べたポイントをまとめましたのでご活用ください。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO -私たちの会社は顧客の期待を超える- 」より
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