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このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。

第176話 組織を活かす、QMSを活かすための技術・技能の伝承」「わざ」を仕組みで活かす -「気づき」の大切さと「気づき方」を伝える- (その2)

2.気づきについて

先の柔道の話では、①今まで知らない世界を聞いたり、見たり、経験することで何かに「気づく」→②従来の技術を変える→③新しい技術を得る というステップにより、石井選手は、勝つための技を磨くことができたと考えます。このきっかけとなった、今まで知らないことからの「気づき」を、ここでは「外からの気づき」という、ことにします。

新たな「技術・技能」を創る、又は従来の「技術・技能」を磨くためのきっかけとなる「気づき」は、「外からの気づき」の他にもう一つ、「内からの気づき」があります。

今年の4月1日、筆者は東京のとあるホテルの20階(地上121m)にあるレストランで朝食をとっていました。広い窓から辺りの景色を眺めていると、何かが空中を舞っていることに気づきました。気を付けなければ分からないほど小さなものです。目を凝らして見ると、それは1枚の桜の花びらでした。季節的に桜の花びらが舞うことは珍しいことではありませんが、筆者が意外に思ったのは、桜の花びらほどの大きさと重さがあるものが地上121mの高さを舞っていることでした。これをきっかけに、黄砂のような砂粒が中国から日本に舞って来ることを考え、次に、砂粒よりもっと小さなもの、微生物がこの空中に飛んでいることを、そして、実際には見ることができない程の小さな微生物を可視化することができたらなど、次々に連想していきました。辿り着いた先は、微生物を見ることができる眼鏡を開発したら、病気の感染を予防することに繋がり、きっと世の中の為に役立つことになるのでは、という思いつきでした。筆者は、微生物には、あまり詳しくないので実現には至りませんが、新しい技術が生まれる過程は、これと同じようなプロセスを経て具体化していくのではないでしょうか。①既存の中から何かに「気づく」→②連想する→③新しい技術を創造する、というステップです。このステップでのきっかけとなった「気づき」を、ここでは、「内からの気づき」ということにします。

 

次に、「外からの気づき」と「内からの気づき」による事例を幾つか挙げ、それがいかに、身近な仕事のやり方を変えるきっかけになっているかを説明します。

 

【事例1】

Aスポーツクラブでは、更衣室の床がいつも濡れていて、利用者から苦情が絶えません。係員が定期的に床を拭いているのですが、四六時中、床を拭いている訳にはいきません。床が濡れる理由は、プールの利用者が体に付いた水を十分に拭き取らずに更衣室に入ってくることでした。

プールの入り口の扉には「プール、サウナ後のタオルをご持参下さい」と明記した貼り紙をしているのですが、効果はありません。

 

ある時、係員は、プールを初めて利用する人から、「プールでタオルを何に使うのですか?」と尋ねられたことで、貼り紙の表示内容に問題があることに「気づき」ました。

 

プールからの出口、つまり更衣室に入る扉に新たに、「ご持参のタオルで体を拭いてから外に出てください」ということを明示した大きな貼り紙をしました。それからは、プールの利用者の協力が得られるようになり、利用者からの苦情は減りました。

 

 

【事例2】

健康食品を製造しているB社で、1ロット1,000Kgの製品が不良品となってしまう問題が発生しました。作業標準書どおりに作業を行っていたにも拘わらず、不良品ができてしまったのです。その作業は、経験の浅い作業者が担当していましたが、どこに問題があったのか分からず、製造課長は、どのような再発防止対策を講じたらよいか分からず、悩んでいました。

 

製造課長は、自ら立ち会いのもと、不良品ができた状況を再現し、それを観察することで、作業標準書の内容に問題があることに「気づき」ました。

 

作業者は、不慣れなため1つずつの動作が遅く、作業標準書通りに作業をしても、実際には、意図した加工条件で作業が行われていなかったこと(所定の加熱時間を満たしていなかった)が判明しました。

作業順序とその内容だけを記述していた作業手順書を改訂し、そこに不慣れな作業者にも間違いなく作業ができるコツを盛り込みました。コツを示す内容には、なぜその作業が必要なのか、できばえを確認するポイント、いつもと違う状態であれば上司にすぐに報告することなどを加えました。その後、作業トラブルは発生していません。

 

 

【事例3】

CホテルのマネージャーDさんは、競合するホテルが多い中、お客様の期待を超えるようなサービスを提供することで、他のホテルとの差別化をしようと考えました。しかし、お客様にどのようなサービスを提供すれば喜んで頂けるのか、良い情報を得ることができません。お客様アンケートの回答率は低く、そのうえ、回答で得られた内容は、可もなく不可もなしというものばかりです。

 

休日、Dさんは家電量販店に買い物に出かけました。パソコンを見ていると、店員が近づいてきて、「説明が必要でしょうか。」と問いかけられました。その店員は、Dさんから必要な情報を聞き出し、Dさんに適切なアドバイスを与えました。その時、Dさんは、あることに「気づき」ました。

 

Dさんは、ホテルの業務の中で、チェックイン、チェックアウトの機会以外にも、お客様と接する機会があれば、いつでもお客様に声をかけ、直接、要望事項を聞くことにしました。お客様は、聞かれれば気づいたことをDさんに気軽に話します。Dさんは、お客様の生の声を聞くことができるようになり、その要望に基づき対応を改善したところ、リピートのお客様を増やすことができました。

 

【事例4】

プラスチックの成型品を製造している会社E社の作業主任Fさんは、職務として、工程で発生する不良数を低減しなければなりませんが、良い知恵がありません。

 

業界団体より、工場見学の案内があり、Fさんは、異業種である鉄板を加工する工場に見学に行く機会を得ました。使用している原材料や加工の仕方、設備など、自分が担当する業務と全く違いますが、管理ポイントの説明を受け、自社で欠けていたあることに「気づき」ました。

 

見学をした工場では、ある加工工程の重点管理項目を機械・設備のメンテナンスとしていました。Fさんは、自らの工程において重点的に管理する項目は、機械・設備の条件だけであり、精密な機械部品を揃え、最適な加工条件を設定すれば、それだけで良品ができると思っていたのです。機械・設備は使用するうちに、摩耗、劣化し、変化することを、全く考慮に入れていませんでした。

この工場見学により、機械・設備のメンテナンスの重要性を認識し、設備管理をおこなったところ、それまで横ばいであった不良数は減少しました。

 

事例1と2は、「内からの気づき」、事例3と4は、「外からの気づき」に基づくものです。

各事例における「気づき」が、ISO 9001の条項、つまり企業のQMSにおけるどの要素に関連するのか、(図9)に示します。

 

 

 

 

日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「ISOで技術・技能を伝承する」の第1章「組織を活かす、QMSを活かすための技術・技能の伝承」「わざ」を仕組みで活かす -「気づき」の大切さと「気づき方」を伝える-」より


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