このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
4.コミュニケーションのポイント
(1)コミュニケーション活動の現状把握
私は、QMSやEMSで成果を出す、つまり儲けるための仕組みに変えたいなど、企業からの依頼に基づき、マネジメントシステム改善の支援をすることがあります。このとき、まず始めに内部監査の実施状況を確認します。一事が万事、内部監査は、マネジメントシステムの状態を推し量ることができる、バロメーターだからなのです。(参考文献1、2参照)
また、私自身が監査員となって企業の内部監査を行うことがあります。監査の基準(適合と不適合を判断する物差し)は、品質マニュアル、環境マニュアルなどのシステム文書としますが、監査の目的はそれぞれの企業で異なります。
ここからは、OEM(相手先ブランドによる生産)をしている企業(仮にO社とします)における内部監査の実施例を挙げて説明します。O社のようなOEMをしている企業での内部監査は、ISO9001 7.2「顧客関連のプロセス」、7.4「購買」及び7.5「製造及びサービスの提供」、つまり顧客要求事項を明らかにして、これを実現するために原材料の購買及び生産活動が間違いなく行われているか、ということを重点的に調査します。
次に調査内容の概略を述べます。
1)営業及び注文の受付業務の窓口の担当者に対して調査をします。製品一覧表の中から任意のOEM製品数点をサンプリングし、当該製品の受注時点より現在までの仕様の変更履歴を確認します。併せて、過去の顧客クレームの内容及びその対応についても確認します。
2)購買の担当者に、1)で調査した製品に使用する原材料を供給するメーカーの評価及びトラブル実績を確認します。また、原材料の仕様書の内容、変更及び受け入れ検査の結果などの調査も実施します。
3)製造及び生産管理の担当者に、1)で調査した製品に係わる製造仕様書及び改訂履歴の内容を確認し、顧客の指示事項が記された技術標準書の内容と照合します。併せて、現場に起因した顧客クレームの歯止めがされているか、実際に現場で確認します。更に、1)、2)で調査した情報が、製造仕様書の内容に反映され、製造現場に伝わっているかどうかを確認します。
以下、製造現場で製造仕様書通りの作業が実施されていることを観察します。
上記の調査で、1)と3)は顧客とのコミュニケーション、2)は供給者とのコミュニケーションを中心に調査をします。また、1)→2)→3)と順次調査を進める中では、1)でサンプリングした製品に係わる関連情報の糸を手繰ることで、内部コミュニケーションに問題がないかどうかを確認することができます。
この調査により、O社では次のような問題が発見されました。営業の担当者は、製品の仕様変更について顧客より連絡を受けていたのですが、製造現場だけに連絡をして、生産管理部署には情報を伝えていませんでした。しかし、製造方法の変更指示の権限は、生産管理部署にあったため、製造部署には内容変更の正式な指示は出されず、また、製造仕様書にも反映されていませんでした。O社以外の企業でも、過去の顧客クレームを調査してみると、O社と類似した原因による問題の発生事例を見かけることが、しばしばあります。
(2)コミュニケーションプロセス
ISO9001及びISO14001で、コミュニケーションの3要素(①伝達し合う相手 、②伝達するもの、③伝達手段)のうち、どれが要求事項として含まれているか、表にまとめてみました(表1 参照)。
表1から分かるように規格の要求事項には、①~③の要素は殆ど含まれていません。
ISOマネジメント規格は、業種や規模などが異なるあらゆる組織に適用できるように汎用性を有するため、具体的な内容まで踏み込んで要求している部分は少ないのです。
そこで、企業において効果的なコミュニケーションプロセスを確立するための手順がISO14004:2004に記述されていますので、これを紹介します。
ISO14004:2004 4.3.3コミュニケーションプロセス
a)利害関係者からのものを含む情報を収集し、調査する。
b)対象者及び情報又は対話の必要性を決定する。
c)対象者の興味に合った情報を選択する。
d)対象者とコミュニケーションを図るべき情報を決定する。
e)どの方法がコミュニケーションにとって適切であるかを決定する。
f)コミュニケーションプロセスの有効性を評価し、定期的に判定する。
a)~f)の手順の中で、最も大切なステップはd)です。コミュニケーションで扱う情報が決まれば、伝達する手段は既存の方法を活用しても良いし、新たな方法を考えても良いのです。
私の経験から、企業で検討に値する、外部コミュニケーションで扱う情報の例を表2に、内部コミュニケーションで扱う情報の例を表3に示します(表2、3 参照)。
外部コミュニケーションで扱う情報は、コンプライアンス、顧客、供給者、その他利害関係者、マネジメントシステム活動に分類し、それぞれインプットとアウトプットに係わる情報をまとめました。QMS、EMSに限らず、マネジメントシステムに基づく活動において企業が扱う情報を決める上で、参考にすることができます。
ところで、私は、企業の品質問題は、顧客の無理な要求に起因しているということを聞くことがあります。検討期間や納期の短縮などの要求が、問題の原因であるというのです。確かに、それは事実かもしれませんが、嘆いているばかりでは、問題の解決には至りません。逆に、企業側が、短時間でも間違いが発生しない仕組みに改善することで、ムリがムリではない業務の流れにしたらどうでしょうか。コミュニケーションプロセスは、改善が必要なプロセスのつぼに相当します。顧客は、期待以上の対応に感動を覚え、その企業のファンになるのです。
5.おわりに
本年は団塊の世代の定年退職が始まる、いわゆる2007年問題の年です。今まで企業を支えてきた技術者や熟練工が一挙に退社することで、企業活動に大きな影響を与えることは必至です。企業では、作業要領などを文書化することで、ノウハウを後継者に伝承しようとしていますが、ここでもコミュニケーションが鍵を握っています。つまり、作業のやり方だけを文書などで伝えるだけでは、問題の発生を防止することはできません。その作業の目的と急所を、しっかり伝えることが大切なのです(参考文献3参照)。
先日、ある食品会社において消費者の信頼を裏切るような行為が発覚し、社会的な問題になっています。この会社は、ISO9001及びISO14001の認証(適用範囲のサイトは異なる)を受けていました。
ISOマネジメントシステムは、トップが方針(組織の全体的な意図及び方向付け)を設定し、組織の要員が一丸となってこれを実現するための仕組みです。そして、この方針には、法令・規則の順守に対するトップのコミットメント(腹を切る覚悟)が、必ず含まれています。
マネジメントシステムの活動では、トップから作業者までの全員が、常に方針を心に留め業務を行う必要があります。ISOマネジメントシステムは、経営に役立つツールです。しかし、ツールは、法令・規則の順守、顧客の要求、組織の決めごとなどを確実に実施することで、効果が得られるのです。
参考文献:
「ISOマネジメント」日刊工業新聞社
1)2007年3月号特集記事『5S・JIT・ISOで儲ける』
2)2006年2月号『内部監査はQMS活動全体の状態が分かるバロメーター』
3)2006年4月号特集記事『人も仕組みも育てるもの』『QMSのリフォームは必要ありませんか』
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載したリレー連載「今だからこそマネジメントシステムで我が社のファンを増やしませんか」の「コミュニケーションを有効に活用する」より
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