このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
今年2月4日発行の「TIME」誌に、ダボス会議(※1)で、経営者や有識者とディスカッションしているクレイントン・クリステンセン氏(ハーバード・ビジネス・スクール教授)の記事が掲載されていました。
この記事で、同氏は、イノベーション(革新)を、三つのタイプに分類し、一つ目のタイプをEmpowering innovation、二つ目をSustaining innovation、そして三つ目をEfficiency innovationと名付け、それぞれの特徴を次のように説明していました。
Empowering innovationは、生産物を変化させることができる技術革新です。移動手段である馬車から自動車への発展は、その一例です。当時の自動車は、故障が多く、価格も高いため、富裕層しか得ることができませんでした。
Sustaining innovationは、製品を、より高機能化するための技術革新を指します。
Efficiency innovationは、製品を、より安くするための技術革新です。
経済の面から考えると、Empowering innovationは、仕事(jobs)を増やし、Efficiency innovationは、仕事を減らします。Sustaining innovationは、仕事の増減はありません。この20年間で、投資家は、投資回収に5~8年を要するEmpowering innovationへの投資をやめ、1~2年で回収できるEfficiency innovationに投資をしました。同氏は、この20年間、成長を生み出す技術革新に投資がされていないことを問題として提起したのです。
同氏は、イノベーションに係わる新理論を提唱した人物です。彼の著書「イノベーションのジレンマ」(参考文献1参照)には、イノベーションには、持続的イノベーション(Sustaining innovation)と破壊的イノベーション(Disruptive innovation)があり、それぞれのイノベーションのプロセスを解説し、破壊的イノベーションを戦略に活用する術を述べています。
イノベーションについては、従来から、経済学者のヨーゼフ・シュンペーター、ピーター・ドラッカーらが、その重要性を説いてきました。
ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「古いものを破壊して新しいものを創造する、創造的破壊である」と言及しました。また、ピーター・ドラッカーは、イノベーションを、「人的・物的・社会的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすこと」と定義しました。このようにイノベーションは、経済の発展に欠かせないばかりか、企業が利害関係者のニーズ及び期待を満たし、持続的成功を収めるためにも欠かせません。
今回は、この「革新」活動を含む、「9 改善、革新及び学習」について述べます(表1参照)。
(※1) ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会): 世界経済フォーラムが年1回スイスのダボスで開催する会議で、世界の経済・企業のトップ、学者、政治家が集まり、経済や社会に関する意見交換がなされる)
本稿のポイントは、次の通りです。
◇改善プロセスは、PDCAのような構造化されたアプローチに基づき行う
◇革新は、技術、製品、プロセス、組織、マネジメントシステムの課題達成のために活用する
◇持続的成功を達成するためには、“組織としての学習”及び“個人の能力を組織の能力へ統合する学習”を取り入れる
2.改善
まず、ISO 9004 「9.1 一般」及び「9.2 改善」の要点を述べます。
「9.1 一般」の要点
◇組織環境によって、(現在の製品、プロセスなどの)改善及び(新しい製品、プロセスなどを開発するための)革新が、持続的成功のために必要となり得る
◇学習は、効果的かつ効率的な改善及び革新のための基礎を提供する
◇改善、革新及び学習は、(図1)に示す事項に適用することができる
◇効果的かつ効率的な改善、革新及び学習のための基礎は、データ分析に基づき、組織の人々の能力及び原動力、並びに得られた教訓を取り込むことである
「改善」は、ISO 9001 「8.5 改善」にありますが、「革新」は、ISO 9001では扱われていません。そこで、まず「改善」と「革新」の意味を確認し、次に両者の違いを明確にしていきます。
英和辞典では、改善(improvement)を「改良すること」、革新(innovation)を「新しいこと、物、方法の導入」と説明しています。電話を例にとり両者の違いを説明すると、ダイヤルフォンからプッシュフォンへの変化(アナログ化からデジタル化)は、改善(操作性を良くする、通信速度を早くする、通信情報を増やす)であり、固定電話から携帯電話への変化は革新(それまでにはない、通信形態)であると言えます。
次に、「学習」については、組織には、次の二つの意味で学習能力が必要であることを述べています(JIS Q 9004:2010解説 参照)。
◇競争環境において、自組織の位置づけを理解し、競争優位に資する情報の獲得、分析、活用を考える組織としての能力
◇個人の行動と組織の価値観を融合させる能力
以上により、「学習」は、「改善」及び「革新」を効果的に実施するための基礎であると言えます。
ところで、先に取り上げた「改善」及び「革新」に係わる事例は、その対象が製品(電話)でしたが、ISO 9004では、「改善」、「革新」及び「学習」は、(図1)に示す事項に適用されるとしています。
次に「9.2 改善」の要点を述べます。
「9.2 改善」の要点
◇改善活動は、職場における地道な継続的改善から、組織全体の著しい改善まで広範囲にわたり得る
◇データ分析を通して、製品、プロセス、組織構造及びマネジメントシステムの改善の目標を決めることが望ましい
◇改善プロセスは、例えば、PDCA(Plan-Do-Check-Act)のような、構造化されたアプローチに基づき行う
◇継続的改善が、(図2)に挙げた事項を通して、組織文化の一部として確立されるようになることを確実にする
ISO 9004附属書B.7 品質マネジメントの原則6:「継続的改善」には、この原則から得られるa)主な便益、及びb)この原則を適用するために必要な事項が示されています(図3参照)。ISO 9004 本文にある(図2)の事項は、(図3)のb)にある事項と関連していますので、参考にしてください。
ISO 10014(参考文献2参照)は、品質マネジメントの8原則に基づいて、個々の原則と適切な品質管理技法を組み合わせて、便益を達成するためのPDCAの枠組みを示しています(図4参照)。改善プロセスのPDCAに基づく構造化は、(図4)を参考にすると良いでしょう。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「ISO 9004を活用して経営に活かすためのQMSに変える!」 2013年6月号より
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