このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
4.仕組みを育てる
子供の頃、笹で舟を作り、川に流して遊んだことを、私は、つい先日のことのように覚えている。川上で流した笹舟を川下で待っていると、思いのほか、到着までの時間がかかったり、どこか途中で引っかかりして私の待っている所までたどり着かないこともあった。見た目にはさらさら流れていても、実際には川は淀んでいたり、小枝などの障害物に引っかかって笹舟が来ないのである。
QMSも同じように、一見業務がスムーズに流れているように見えるが、実は、どこかで淀んでいたり、障害物に邪魔されていることがある。仕組みを育てるというのは、淀みや障害物を取り除き、業務の流れをさらさらにし、その業務が持つ目的を果たすことができるようにすることである。
今回は、製造工程(7.5.1関連)に関わる業務を確認するための効果的な手順を述べる。なお、この手順の原理は、笹舟を川に流すことと同じであり、具体的なサンプル(笹舟)を基に、業務の流れ(川の流れ)に沿って目的が達成できているか(目的地へたどり着くか)どうかを確認することである。
もの作りの対象となるISO9001:2000の条項は、つぎのとおりである。
対象となるISO9001(JIS Q 9001):2000の条項
7.4.3 購買製品の検証
7.5.1 製造及びサービス提供の管理
7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認
7.5.3 識別及びトレーサビリティ
7.5.5 製品の保存
7.6 監視機器及び測定機器の管理
8.2.4 製品の監視及び測定 など
これらの業務が間違いなくおこなわれているかどうか、私が食品会社を訪問し、製造工程の実態調査をするときの確認手順を例に挙げ、次に述べる。
①私は、まず、スーパーなどで製品(食品)Cを購入し食する。なお、私が欲しいものは、製品Cではなく、当該製品のロット番号など、製造履歴を調べるための識別情報である。
②次に、現地において、お腹の中に入った製品Cのロット(例えば、YY-1)の履歴を調べていく(図8 参照)。
ロットYY-1に関連する出荷の記録(出荷日、出荷先、出荷数量)を基に、検査の記録(外観検査、物理・化学特性評価結果、微生物試験結果)、製造の記録(製造日、製造設備、担当者、製造条件、管理項目、管理結果、工程内検査の結果)、原材料の記録(原材料名、原材料名、使用量、原材料検査結果)など。
図8からもわかるように、YY-1という1つのロット情報より、各条項に関わる調査が展開される。つまり、業務のつながりが確認できるのである。
③工程管理(7.5.1)の調査では、製品CのQC工程図を基に、作業標準書及び記録の内容を確認する。記録は、ロットYY-1に関連するものを確認する。
この調査で、
など、いくつかの貴重な情報を得ることが出来る。
④次に、製品CのQC工程図により、実際に現場での作業確認をすることは言うまでもない(3現主義:現地、現物、現実)。
現場では、見て回るのではなく、現場に留まり作業をじっくり観察することが重要である。観察の結果、問題点や改善点が見えてくる。
⑤他の調査、例えば検査業務でも同様に、製品C及びロットYY-1に関連する検査業務の実施状況を確認していく。
製品C ロットYY-1という笹舟を業務という川の流れの中に浮かべて、QMSの問題点すなわち淀みや障害を確認していく。確認の結果、得られた問題点(手順通りの作業が行われていない、必要な管理項目を落としていたなど)に対し改善を図る。改善の結果は、問題の大きさにより、品質マニュアルの改定に及ぶものもあれば、QC工程図や作業標準書の改定で留まるものもある。いずれの場合も、QMSをより良い方向へ変え(QMSを育てる)、その成長を記すことになる。
QMSを漫然と眺めていても、具体的に業務のどこに問題が潜んでいるか見つけることは難しい。今回、紹介したこの方法は、QMSの淀みや障害を効率的に発見する優れものであり、発見されたウィークポイントを改善することにより仕組みが、より成長するのである。
5.おわりに
よく、部下に対する教育の場面で、「百聞は一見にしかず、現場に行って見てこい」 などと言って現場の重要性を説いたりする。皆さんご存じのことではあるが、その意味は、“何度聞くよりも一度実際に見た方がまさる”というものである。私の持論は、このことわざから更に発展させ、「百見は1験にしかず」すなわち、“百回見るよりも1度の経験がまさる”というものである(図9 参照)。
顧客満足の向上を目指すときに、「お客様の立場になって考えよ」とよく言う。しかし、お客様の立場で考えても、まだお客様の気持ちがわかることは難しい。実際に、お客さんになって初めてわかるのである。例えば、医者は患者として入院をして医療行為を受ける、ホテルマンは客として(勤め先とは別の)ホテルのサービスを受ける、製造業の技術者は量販店にいき他社製品と自社製品の説明を受け優れた製品を選ぶ など実際の顧客になって(受け手として)経験することで顧客に満足して頂ける要素が分かるのである。
さた、今回のテーマは、「人財を育てること」と「仕組みを育てること」を採り上げたが、両者には(QMS活動全体を通じて)には共通の要素がある。共通の要素とは、それぞれに目的(注1)があり、その目的をしっかりと意識(明確に)することである。目的が明確になれば、目的を達成するための目標(注2)も定まる。目標は、品質方針(5.3)に基づき設定する品質目標(5.4.1)があれば、各業務の目的を達成するための目標や製品の目的を達成する目標もある。QMS活動は、これらの目標を効果的に達成するための手段なのである(図9 参照)。
世の中は、たいへん速いスピードで変化している。世の中の変化とともに顧客が求めるもの(要求事項)もどんどん変わる。このような環境の変化に対応できる人財と仕組みを上手に育てることが、企業の課題と思うのだが、どうだろうか。
広辞苑 第5版より
(注1)目的:成し遂げようと目指す事柄。
(注2)目標:目的を達成するために設けた、めあて。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「中小企業だから実現した儲かるISOのコツ」の第2章「人も仕組みも育てるもの」より
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