このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
3.文書化のススメ
私は、ISO9001の審査登録に取り組む中小企業には、文書はできるだけ少なくし、現状をベースとしたシステムの構築をお薦めしている。文書は、QMSの内容を記述した品質マニュアル(30頁程度のボリューム)と記録の様式(様式には作業手順の内容が含まれる)だけで十分である。
しかし、QMS構築の目的によっては、たくさんの文書が必要になることがある。今から紹介する事例は、その1つである。
B社は、建設工事の仕事を請け負う、従業員20名規模の会社である。
現在の社長は、先代の社長(父親)から会社を受け継ぎ、1年を経て、社長としての仕事は何であるのか、やっとわかるようになってきたところである。
いろいろなことがわかると、心配事も出てくるものである。社長は、従業員の高齢化と技能の伝承の問題に頭を悩ませ始めた。従業員の多くは、勤続年数30年以上のベテランである。あと数年で半数以上が定年の時期を迎える。また、従業員は昔ながらの職人気質であり、仕事は教えるものではなく盗むものと豪語しており、このためなかなか後進が育つ環境ではなかった(図5 参照)。
社長は、このような状態でスムーズな世代交代ができるのか。また、このまま行けば会社の存続は危ないのではないかと考えたのである。
ちょうどその頃、親会社からのISO9001審査登録の要請があったことから、この問題の解決策の検討と併せQMSの構築に臨んだ。
手順1:事実確認と現状把握を実施する
B社では、仕事は従業員が持っている力量に基づき担当を決める。その後は、担当者に仕事を任せ、進捗状況の報告を受けるだけである。また、社員を採用したときは、ベテランの手伝いとして仕事に就かせる。しかし、採用された者は、一人前になる前に辞めてしまうことが多い。
手順2:やり方の改善をする
ISO9001 7.5.1では、次の事項を要求している。
ISO9001:2000 7.5.1より
7.5.1製造及びサービス提供の管理
組織は,製造及びサービスの提供を計画し,管理された状態で実行すること。
管理された状態には,該当する次の状態を含むこと。
B社では上記のa)製品特性、c)設備、d)検査機器、 e)検査方法 などの項目を網羅したb)作業標準書を作成することにした。
なお、ノウハウを伝承するのが目的であるため作業標準書の項目は、工程、作業内容、作業の図又は写真入り構成となっている。更に工夫した点は、作業ポイントと、作業ポイントを外したときに発生する事象を加えたことであり、次工程又は最終成果物への影響を記したことである。
また、職人気質をもち、他者に教えることを良しとしない従業員からノウハウを聞き出すことは容易なことではない。従ってこの作業標準書は、社長自ら作業現場において、作業者からの聴き取り調査により作成したものである(図6 参照)。
この実施内容を5W1Hでまとめると次のようになる。
When:工程ごとに
What:「作業内容」、「作業のここがポイント」、「ポイントを外すとどうなる」及び「作業の関連の図や写真」を
Where:工事現場において
Who:社長が
How:作業の観察、現場における写真撮影及び作業者からの聴き取り調査により作業標準書を作成した
Why:技能の伝承とノウハウの蓄積のため
手順3:改善の効果を確認する
経験の浅い作業者に作業標準書をもたせ、ベテランの手伝いとして仕事に就かせる。理解できたところとできなかったところを識別する。
理解できなかったところは、更に作業の内容を細分化し、作業標準書の内容を改訂する。
手順4:システムの見直しをする
新たな作業が追加になったとき、又前述のISO9001 7.5.1の要素、a)製品特性、c)設備、d)検査機器、 e)検査方法 などが変更になったとき、作業標準書の内容を改訂することとした。
以上の活動により、B社の作業の手順は標準化され、技能の伝承、ノウハウの蓄積が可能になった(図7 参照)。
4.おわりに
日本的品質管理(TQM)では、品質を「当たり前品質」と「魅力的品質」に分けて説明している。「当たり前品質」とは、本来備わっているはずの特性をもっていることが当たり前で、なければ不満足につながるもの。「魅力的品質」とは、その特性を持っていなくても不満足にはつながらないが、持っていれば大満足(感動)を与えるものをいう。
ちなみに、この2つの品質に関わる呼び方は、ISO9001の要求事項では7.2.1に関連する。
ISO9001:2000 7.2.1より
7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化
組織は、次の事項を明確にすること。
7.2.1の要求事項の中では、「当たり前品質」の要素は、a)、b)、c)などが相当し、「魅力的品質」の要素は、d)が相当する。
私がよく利用するビジネスホテルでの例を挙げてこの要求事項を考えてみる。
まず、「当たり前品質」は、安全の面で言えば、例えば震度5程度の地震でも倒れない、見知らぬ人が勝手にはいってくることができないなど、設備、備品の面で言えば、例えばテレビ、エアコン、ヘヤードライヤーの設置など、が考えられる。
また、「魅力的品質」は、マッサージ機が設置されている、インターネットが使いたい放題など設備やサービスの面で同じグレードの他のホテル(ビジネスホテル)に比べ、優れている状態が考えられる。当然、「当たり前品質」と「魅力的品質」の境界は、時代や技術に基づく価値観の変化や個人の価値観の多様化などで左右される。
ここからは、皆さんへの質問です。
皆さんがビジネスホテルよりひとつランクアップしたシティホテルに宿泊したときのことを考えてください。シャワーを終えてバスルームからでてきたあなたは、部屋にヘヤードライヤーが備え付けられてないことに気がついた。あなたはフロントに、ヘヤードライヤーを貸し出して、部屋までもってきてほしいと頼んだところ、フロントまで取りにこないと渡せないと断られた。さあ、あなたはどのように感じますか。
やはり、不満足を抱くのではないでしょうか。シティホテルでのサービスが、ヘヤードライヤーが備え付けられていることが当たり前のビジネスホテルより更に低ければ当然のことと思います。再び同じ都市を訪れたときには、恐らく不満足を感じたシティホテルには、もう泊まらないのではないでしょうか。
一方、ホテルの側からみると、ヘヤードライヤーは、フロントで直接貸し出すことが当然と思っているのですが、チェックアウトの際に積極的にお客様からのご意見を聴くような仕組みがあったらどうでしょうか(関連 8.2.1)。そして、その情報を基に改善した結果を顧客が明示していないが、当たり前として要求しているものとして扱えば(関連 7.2.1b))お客さんを逃がすことはありません。
ISO9001は、このように使うための道具であり、道具として使えないQMSは、是非リフォームすることをお薦め致します。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「中小企業だから実現した儲かるISOのコツ」の第5章「QMSのリフォームは、必要ありませんか」より
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