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このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。

第169話 ISOと5S・JITのシナジー効果で、さらに儲ける (その2)

2.QMS,EMSと5S・JIT その関係

近年、企業活動において、経済的な利益追求に加え、社会に積極的に貢献する取り組みへの重要性が高まった。QMS、EMS及び5S・JITは、企業が利益を上げるためにも、また、社会的責任を果たす上でも有効な手段である。次に、QMS、EMS及び5S・JITの企業活動に果たす役割とそれぞれの関係を示す。

 

(1)5Sは、QMSとEMSの基礎である

筆者の業務は、QMS及びEMSなどのコンサルティングであるが、その中には構築後の支援活動を含む。次の場面は、筆者が定期的に訪問している企業において、製造課長とやりとりしている1コマを再現したものである。ここで5Sに係わる要素をS、QMSに係わる要素をQ、EMSに係わる要素をEとして表示し、5S、QMS及びEMSの関係を示した。更に、この関係を(図3)にまとめた。

 

筆者: まずは現場へ案内してください。

筆者: 前回に比べ、ずいぶん良くなりましたね。場内に入ったら、全体の状況がすぐに見渡せますね。ものの滞りや人の動きもすぐに解るようになりました。

課長: 以前から指摘して頂いていたのですが、これまでは整理(S1)がなかなかできませんでした。今回、思い切って殆ど使わなかった設備を処分し、仕掛品を少なくしたら有効スペースが広くなりました。また、整頓(S2)により、設備や材料の置き場所などの配置を替え、移動距離が短くなるようにしました。ものは目の届く高さ以上に置くことがないようにしました。その結果、場内全体が見渡せるようになった次第です。これで、原材料の保管場所(Q1)は、固定でき、個々の識別表示(Q2)が確認しやすくなり、原材料を取り扱うときの誤用防止になりました。又、原材料の在庫は、ひと目でその状態が確認できるようになったことで大幅に減り、資源を有効に使う(E1)ことができるようになりました。万が一火災などの緊急事態が発生したとき(E2)も、すぐに発見でき迅速な対応が図れます。

筆者: それでは作業内容を確認させてください。

課長: この作業は一人の作業者が3工程を担当します。作業で不良品を作ってしまったときは、良品と区分、整理(S1)するために、赤く色を塗った不適合製品(Q3)箱に一次保管します。班長が定期的に巡視するときに、不適合製品の内容を確認し、修正するものと廃棄するものを判断します。廃棄物(E3)は、素材別に分別し廃棄します。

筆者: 設備点検(Q4)などはどのようにしていますか。

課長: 作業開始時に日常点検を実施しています。又終業時には清掃(S3)しますので、そのとき機械からの油漏れなどの異常があればすぐに分かります。その油が排水溝まで流れたときには、水系への汚染(E4)が懸念されますので、即時に処置をします。

 

(図3)には、この会話の中で出てきたQMS及びEMSの4つの要素と5Sの内容を記した。この図から分かるように、5SはQMS及びEMS活動を運営するための手段であり基礎となるものである。QMS及びEMSを家(仕組み)と例えるならば、これを支える土台が5Sということになる(図3 参照)。

 

 (2)JITは、QMSとEMS運用のエンジンである

QMSはISO9001の要求事項を、EMSはISO14001の要求事項をそれぞれ満たさなければならない。要求事項とは、規格の中で「~すること」と記述されている1つの文章を指す。例えばISO 9001 「7.5.1製造及びサービス提供の管理」では、「組織は、製造及びサービス提供を計画し、管理された状態で実行すること」が1つの要求事項である。QMSを構築する際に、企業ではそれぞれの要求事項に対する実際の活動内容をあてはめ手順を明らかにする(表1 参照)。

表1 ISO 9001  7.5.1要求事項と手順

 

(表1)から分かるように、ISO規格の要求事項は仕組みの骨格として必要な要素を明示するだけである。ISO 9001 7.5.1は、製造に係わる活動について要求事項を定めているが、その中には「こうすると不良が減る」などの具体的な方法の明示はない。

本編「1.視覚化のメリット」で述べたように、文書化は仕組みの内容及び流れを視覚化し、企業にとって問題を顕在化するメリットはある。しかしISO規格は、要求事項(強制力を発揮する)を定めた規格であり、又会社の業種、業態、規模を問わず使うことができる汎用性を有した規格であるが故に、方法論、つまり業務の効率化(ムリ、ムダ、ムラの排除)、改善(注2)及び改革(注2)の具体的な手順(注3)を含んでいない。

(注2)

 (注3)

上述した特徴を含め、ISO規格が経営ツールとして企業活動にとって優れた点(業務の視覚化、必要な要素を網羅、自社レベルに合わせた仕組みができるなど)と、又その反面、弱い点を(表2)にまとめた(表2 参照)。

 

JITは、必要なものを、必要なときに、必要なだけ生産する仕組みである(詳細は、古谷誠氏の記事を参照)。JITは、流れ生産、平準化、標準作業などの要素を含み、ムリ、ムダ、ムラのない物造りを実現する。企業が、不良減、工数減、在庫減などの改善及び改革活動を進める上で、JITは効果をだすための有効な活動である。又、JITは効率化(ムリ、ムダ、ムラの排除)、生産活動における具体的な改善及び改革手順を含み、(表2)の中で挙げた項目ISO規格の弱い点をカバーする。

ISO規格に基づき会社の枠組みを作り、生産活動における改善及び改革活動ではJITを活用する。車のボディーがISO規格で、改善及び改革を進めるエンジンがJITに相当すると考えると、分かりやすいのではなかろうか(図4 参照)。

 

(3)QMS,EMS とJIT・5Sの対象範囲

QMS、EMSでは、サイト、業務など仕組みを適用する範囲を組織図や業務分掌などで明らかにする。その活動は、企業活動全般に及び、対象となる部門はトップマネジメントから営業、設計開発など広い範囲が該当する。

5S・JITは主に生産活動が対象となる。つまり、活動の対象となる主な部門は生産管理及び製造部門である。QMS、EMSと5S・JITの対象範囲を示すと(図5)のようになる。QMS、EMSは、5S・JITに基づく生産活動を包含する。(図5 参照)。

 

日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「5S・JIT及び品質と環境のISOで儲ける」の第6章「ISOと5S・JITのシナジー効果で、さらに儲ける」より


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