このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
3.監査所見を明確にする
さて、ここからは、経営に活かすための内部監査のポイントの説明に入ります。第4回目のテーマは、『監査所見は「白と黒」』です。
1.現場における監査活動の流れ
現場における監査の流れとそのポイントを(図4)に従って説明していきます。
(1)監査証拠を収集する
現場には、様々な情報がありますが、限られた時間の中で行う監査では、その全てを確認することはできません。そこで、予め作成してきたチェックリストにより、任意の情報を選んで確認します。この任意に得た情報が監査証拠です。(チェックリストの作成及び準備の重要性については第2回の記事を、サンプリングについては第3回の記事を参照して下さい。)
(2)監査所見をまとめる
収集した監査証拠を、監査基準により評価をして、それが適合であるか不適合であるかを判定します。適合の領域には、良好な点及び監査の時点では問題ではないが今後留意しなければならない点が存在します。良好な点は優れた実践事例、又、留意しなければならない点は改善の機会として、監査所見をまとめます(図5参照)。
(3)監査結論をまとめる
監査結論は、適合(優れた実践事例、改善の機会を含む)と不適合を確認し、監査目的を考慮して導き出します。例えば、顧客クレームの低減を図ることを目的とする内部監査を実施したとき、①被監査者が積極的に顧客クレームの低減活動を実践していた、②過去の問題に対する是正処置は現在も有効であった、③当該部署に係わる顧客クレーム実績はここ数年ない、などの3つの監査所見により、「当該の部署は、顧客クレーム低減に向けた活動に積極的に取り組んでいる」という結論に達します。
2.的確に不適合を表明する
先に述べたように(2.(1)⑤参照)、筆者は、内部監査の実施状況を、企業におけるマネジメントシステムを効果的に活用しているかどうかを判断するバロメータとして考えています。マネジメントシステムの診断は、過去の内部監査の記録(監査計画書、チェックリスト、是正処置要求書、監査報告書など)の確認と関係者からの聴き取り調査が主な方法です。ある企業で、つい前月に実施された内部監査でどのような指摘がされたのかを知るため、是正処置要求書を確認したところ、そこに記述された内容だけでは、何が問題なのかが分かりませんでした。そこで、この監査に携わった監査員のチームリーダーに直接聞いてみたのですが、当人は詳しい状況を殆ど忘れてしまっており、結局、何が問題であったのかが分からずじまいでした。内部監査における所見、その中でも不適合は、是正処置を確実に行うことにより、再発防止が図られ、マネジメントシステムの改善に役立ちます。しかし、内部監査で発見した問題を的確に表現し、それを記録に留めておかなければ、何もしなかったことと同じ状況になってしまいます。どうして、不適合の的確な表現と記録が必要なのか、その目的を3つ挙げて説明します。
◇監査者と被監査者が不適合の内容を合意する。そして、その事実を残す。
◇監査プログラム責任者に不適合の内容を報告する。監査プログラム責任者は、指摘された各部署の不適合を総合的に評価し、マネジメントシステムを改善するかどうかを判断するための基礎とする。
◇次の内部監査の機会に、当該の部署の監査を担当する監査チームが、前回の不適合の内容を把握し、その是正処置が有効性であるか否かを調査する。
不適合は、時間が経過しても、関係者(監査プログラム責任者又は次回その部署を担当する監査員)の誰に対しても、実際の不適合の状況が正確に伝えられなければ意味がないのです。
3.不適合を明確に表明する要素
ISO 19011附属書B8.3に、不適合の記録に関して考慮する事項が示されています。それは、「監査基準」、「不適合の明示」、「監査証拠」であり、これらは、不適合を的確に表現するために必要な要素と言えます(図6参照)。この要素の中でも、「不適合の明示」は、具体的かつ論理的な表記により、実際に不適合を指摘した時の状況を正確に伝えることを可能にします。
「不適合の明示」を論理的に表現するためには、①適合とはどのような状態をいうのか、②指摘しようとする事項は、どのような状態にあるのか、③よって、指摘しようとする事項は適合ではないので不適合である、 という論法を用います。また、具体的な表現をするためには、5W1H(When、Where、Who(※1)、What、Why、How)を明確にした表記をします(図7参照)。
※1:Who 指摘は、個人に対して言及するのではなく、マネジメントシステムの問題に対して言及しなければならないため、個人名を使うのは避けましょう。
次に、不適合の表明の具体例を記します。
監査基準:品質マニュアル 8.3
不適合の明示:
①不適合製品管理規定では、不適合製品は、適合製品と間違って使用することを防ぐために、赤箱の中に入れることになっている。
②製品Aの包装工程では、15:00頃、作業者が包装不良品を見つけてラインの外に排除したが、それを赤箱の中に入れていなかった。
③不適合製品を定められた赤箱に入れていないことにより、それが間違って適合製品に混入する可能性があることから不適合とする。
監査証拠: 不適合製品管理規定 QP83 rev.3(①に係わる監査証拠)、第5ライン包装工程において不適合製品の排除作業を観察 3/14 15:00(②に係わる監査証拠)
このような表現を用いれば、内部監査で得た不適合の内容を、誰にでも、時間が経っても明確に伝えることができます。
今回の記事のタイトル、「監査所見は、『白と黒』」は、次の2つの意味を持ちます。一つは、内部監査で得た所見は適合か又は不適合である、もう一つは、不適合の内容は誰がみても、時間が経過しても曖昧にならないようにはっきりさせておく、と言うことなのです。
次回は、内部監査で得られた充実点と確実な是正処置が、企業の財産であることについて述べる予定です。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「経営に活かすために内部監査を変える!」 2012年5月号より
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