このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
3.再発防止処置の進め方
次に、先のA社のクレーム対応における再発防止策の内容について述べます。
(1)不適合の内容確認
A社開発・技術担当者は、クレーム発生日に顧客C社を訪問した際、自社に保存してあった試作品のサンプルを持参し、C社の保存サンプル及び納品済みの製品との味の違いを確認しました。確かにそこでは、A社保存サンプルと製品の味は一致しましたが、C社の保存サンプルとは、微妙に味が違うことが分かりました。
(2)原因の特定
本品の開発履歴を調べたところ、試作はTR1~TR8まで合計8回実施し、TR8が製品仕様になったことが記されていました。しかし、C社の所持していたサンプルの味は、TR7仕様のものでした。つまり、C社が望んでいたのはTR7仕様だったのです。
この食い違いの原因を究明するため関係部門が集まり、「なぜ正しい配合指示ができなかったのか」を調査するため、特性要因図を作成しました(図5 参照)。
この特性要因図の作成過程で判明した事実は次の通りでした。
①最終仕様の決定(TR8)後、変更指示(TR8→TR7)がC社よりあった。
②A社の営業は、口頭でC社からの指示を受けたが、別途、正式な変更指示書が発行されると思いこんでいた(新規顧客であるC社がどのような手続きで変更するのか理解していなかった)。
③A社の営業は、C社からの変更指示があったことを忘れた。
④A社の営業は、関連部門の開発・技術部門にも変更連絡をしていなかった。
⑤本製品の仕様は特別なものではないので、デザインレビューは省略していた。
更に、これらの事象が発生した原因を特定しました。
(3)再発防止策
明確になった原因に対し、再発防止策を立案しました(表1 参照)。なお、再発防止策には、JIS Q 9001:2000に基づき、関連する手順の見直しを含みます。
3.ピンチをチャンスに
ここで、A社の事例に基づき、A社が「ピンチをチャンス」に変えたポイントをまとめてみます。
(1)即時処置と再発防止処置
前項でも述べましたが、クレーム対応に限らず、品質問題が発生したときは、即時処置と再発防止処置を実施する必要があります。不適合を歯が痛む状態に例えると、即時処置は痛み止めの薬で痛みを抑えることであり、再発防止処置は歯科で歯が痛む原因(虫歯、歯茎の病気など)を見つけ治療することに相当します(図6 参照)。
それぞれの処置のキーワードは次の通りです。
即時処置: スピードと確実性
再発防止処置: 原因の特定と確実な原因の除去
原因の特定は、4M(人Man、設備Machine、材料Material、方法Method)などの要素を基に、その候補を抽出すると効果的です。問題点を分類するとともに、原因と結果など因果関係などを表す手法として、特性要因図があります(図5 参照)。特性要因図の作成には、原因の可能性がある因子を漏れなく挙げる必要があるので、関係者全員で作成します。
その他、再発防止で忘れてはならないのは、遡及処置です。即時処置及び再発防止処置は、問題が顕在化したときから、これから先の発生を防止するためのアクションですが、遡及処置は、問題が発生した時点まで遡り、その影響に対して評価、処置をすることです。例えば、問題の原因が原材料に起因するものであったと判明したとき、同じロットの原材料を使った製品への影響(品質に与える影響、在庫状況、出荷状況 など)を確認し、必要な場合は回収などに繋がる処置のことをいいます。
(2)経験は財産
クレームなどに代表される品質問題は、多くの場合仕組みの欠点によって発生します。企業活動において、これから先、致命的な問題を発生させないためにも、再発防止処置を講ずることは重要なことです。
なお、再発防止処置の結果は、次の3点に留意し活用することで、企業の財産となります。
①クレームは、品名、内容、数量など項目に基づきデーターベース化し、内容や傾向を分析し、その低減活動に活用する。
②再発防止処置の結果に基づき、品質マニュアル、規定及び作業標準書など関連する手順の改訂をおこなう。
③問題の原因特定時に作成した特性要因図は、問題点を視覚化した品質マップである。新たな問題が発生したとき、過去の品質マップを調査し、その中に新たな要素を書き込み、更新することで、この品質マップは企業の貴重な財産となる。
4.客を我が社のファンに変える
本稿のタイトルに挙げた「我が社のファンを増やしませんか」とは、他社の製品ではなく、我が社の製品を好んで買ってくれる顧客を増やそうという意味を持っています。客には、このように我が社を贔屓してくれる客と、特に我が社でなくとも良いという客に分けることができます。これより、仮に前者を「固定客」、後者を「浮動客」と呼ぶことにします。顧客の増減に関連し、新規の客(以下、「新規客」と呼ぶ)、我が社との相性が悪く去っていく客(以下、「去る客」と呼ぶ)、また戻ってくる客(以下、「戻り客」と呼ぶ)もいます。
これらの客の関係を図7に示します(図7 参照)。
企業活動において、図7に示すように、常に(「新規客」+「戻り客」)≧「去る客」の状態でなければ、事業は縮小してしまいます。この不等式を成り立たせるためには、「新規客」を増やす、又は、「去る客」を減らさなければなりません(「戻り客」は、企業がコントロールすることができないので、ここでは考慮しません)。それでは、どちらに経営資源(人、もの、カネ、情報など)を費やした方が効果的なのでしょうか。その答えは、言うまでもなく、「去る客」を減らすことです。本稿は、「去る客」を減らすための直接的な取り組みとして、再発防止処置について述べました。
また、「去る客」を減らすための間接的な取り組みとして、「浮動客」を「固定客」に変えることが考えられます。「固定客」、つまりお客さんが我が社のファンになれば、「去る客」に転ずる可能性が低くなるからです。前2回(2006年11月号-システムを統合してお客さんの満足を得る-)、(2007年4月号-コミュニケーションを有効に活用する-)は、この視点に立った活動の一例を紹介しました。
企業活動において、①「去る客」を減らす、②「浮動客」を「固定客」に変えることを実践しなければ、企業の永続的な繁栄は望めないでしょう。
5.おわりに
「終わりよければすべてよし」
これは、結末さえよければ、その過程においてどのようなことがあってもかまわない、つまり結果オーライという意味で使われます。この言葉は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「終わりよければすべてよし」が由来となっています(図8 参照)。
この物語の主人公ヘレナは、貧しい医者の娘でしたが、孤児となり、貴族に仕えていました。そして、ヘレナはその貴族の息子に恋をします。しかし、彼はヘレナのことなど何とも思っておらず、その上、二人の身分は大きく違いました。このような状況で、ヘレナは知恵を働かせて何とかこの恋を成就させようとしていきます。最終的には、彼と結婚できるのですが、半ば策略を講じて一緒になったことから、二人の間にトラブルが発生します。そのトラブルを王が鎮め、最後に「終わりよければすべてよし」という台詞で終わります。まさに、結果さえ良ければ、それまでのことはどうでも良いということでしょう。
それでは、マネジメントシステムに基づく活動も「終わりよければすべてよし」で良いのでしょうか。マネジメントシステムは、PDCAサイクルを確実に回し、より高い目標の達成を目指す、企業にとってはエンドレス(存続する限り続く)の活動です。「終わりよければすべてよし」では、1回限りで良い結果が得られたとしても、次に繋がりません。マネジメントシステムとは、「一日の計は朝にあり(一年の計は元旦にあり)」つまり、向かうべき方向を定めること(P(Plan))に重点を置き、これを実現させるべく適切な行動を起こし、「結果はあとからついてくる」ようにすることであると、捉えたらどうでしょうか(図8 参照)。
本稿は、リレー連載の中で私が担当する最後の原稿となります。読者の皆様、ご愛読ありがとうございました。また、本誌を通じて再びお目にかかれる日を楽しみにしております。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載したリレー連載「今だからこそマネジメントシステムで我が社のファンを増やしませんか」の「ピンチをチャンスに変え、お客さんの心を掴む」より
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