このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
3.準備なくして監査に臨むな
さて、ここからは、この連載記事の2つ目のテーマである経営に活かす内部監査のポイントの説明に入ります。今回、第2回目のテーマは、内部監査は、「準備よければ全てよし」です。
まず、はじめに、読者の皆様のマネジメントシステムにおいて、内部監査が機能しているかどうかを、次の質問で自己チェックしてください。
①内部監査では不適合の指摘は殆どない
②指摘は、記録の空欄、文書の承認印忘れが多い
③監査者の質問は、予想できる
④クレーム件数、工程内不良の発生率は横ばい
⑤充実点、良好点に係わる所見は殆どない
これらの質問どれか1つでも○があれば、それは準備不足によって、内部監査が機能していない可能性が高いと考えられます。
①又は⑤が○:被監査者の活動に不適合、充実点が存在しないのではありません。監査者がこれらを見落としているのです。これは、主に、監査者が具体的な監査証拠の確認を怠ったときに生ずる事象です。この問題は、監査の準備段階で、どのような監査証拠を収集するのか、予めチェックリストにメモをしておくことで解決できます。
②が○:内部監査において、記録の空欄、文書の承認印忘れに係わる指摘は、指摘事項の5件に4件、実に80%を超えるのではないでしょうか。記録の空欄などは、誰でも一目で解る事象であり、このような指摘が大半を占めるようでは、表面上だけの調査に終始していると言ってよいのではないでしょうか。この指摘が悪い訳ではありませんが、これはマネジメントシステムの本質的な問題を指摘しているとは言えません。内部監査では、どこに重点を置いて調査するのか、その内容を調査するためにはどのような質問をしたらよいかを、監査者は予め考えておかなければなりません。
③が○:監査は、監査証拠を収集しそれを客観的に評価する活動です。調査する事項は同じでも、監査者は、そのために収集する監査証拠を任意に選ぶので、その質問は被監査者には予想できません。③が○と回答した組織では、監査活動そのものを誤って行っている可能性があります。前回(第1回目)、「監査」の定義の説明を、再度確認してください。
④が○:内部監査で、顧客クレーム、工程内不良の発生などに係わる問題点を見つけるためには、変新後(変化、新規、トラブルその後)に着目した事前準備が欠かせません(図4参照)。事前に、変新後に係わる情報を収集し、監査時に重点的に調査するための質問を予めチェックリストにまとめておきます。変化、新規に係わる調査はトラブル発生の未然防止に、トラブルのその後に係わる調査は、是正処置につながります。
次に、チェックリスト作成のための3ポイントについて述べます。まず、チェックリストの作成にあたり、事前に準備する主な資料は次の通りです。
◇マネジメントマニュアル、手順書などの文書
◇被監査者の過去のトラブル、不適合などの資料
◇被監査者の主な活動記録
チェックリスト作成のための3ポイント
①内部監査の目的が何かを理解する:内部監査では、内部監査を俯瞰(ふかん)する監査プログラム管理者が監査の目的、範囲、基準を設定します。その目的に基づいて、重点的に調査する内容を絞り込みます。
②監査証拠として何を調査すれば判断する:筆者が監査を行うとき、左手に「計画面の証拠(定められたこと)」右手に「運用面の証拠(現実の姿)」を載せてこれらを照合するイメージを持って臨みます。質問する内容は、全て監査証拠に置き換えなければなりません。どのような証拠を手にとれば、目的とする調査ができるのかを、事前に準備した資料を参考にして決めます。
③監査証拠のサンプリングも予め決めておく:監査は現状を把握するためのツールと言えます。内部監査のために被監査者が進んで提示する資料を確認しても意味がありません。被監査者は、問題のない資料を提示してくるからです。被監査者に提示してもらう資料は、監査者が指定しなければなりません。また、そのサンプリングの仕方についても決めておかなければなりません。「変新後」の情報、過去のトラブル、不適合の事例などを参考にしたサンプリング、或いは任意のサンプリングの方法を決めておきます。
内部監査は、第3者審査(認証機関が行う審査)とは違い、事前に被監査者に係わる様々な資料が入手できます。これらの資料により事前準備をするのです。筆者の経験上から、内部監査に要する同程度の時間を、事前準備に費やすと良いと思います。
筆者は、第3者審査を行う審査員になるための研修の講師を務めています。その講習で、受講生の皆さん(プロの審査員になる人たち)には、「審査の準備に半日から1日かけよ。それでなければプロの審査員は務まらない」と言い続けてきました。プロの審査員でも、審査の準備には最低半日をかけるのです。年に1度か2度しか監査を行わない内部監査員が、事前準備することなく、効果的な監査ができるはずはありません。
内部監査において、「準備よければすべてよし」とは、「入念な事前準備をしておけば、準備した通りの調査ができ、その結果、企業活動にとって有用な所見を得ることができる」ことを意味するものです。準備をしないで無意味な内部監査を行うのか、又は、入念な準備により内部監査を有意義なものにするのかは、読者の皆さん次第なのです。
次回は、内部監査における監査証拠の役割と効果的な監査証拠の収集について述べる予定です。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「経営に活かすために内部監査を変える!」 2012年3月号より
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