このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
2.すでに準備から内部監査は始まっている
内部監査で、空欄や承認もれの指摘が多いのは、準備不足がその原因である。
内部監査は、マネジメントシステの現状を認識する、或いは問題点を「見える化」するためのツールです。しかし、それを認識せず、ただ形式的に行ってきた組織でよくある指摘は、記録の空欄や文書の承認もれです。このような組織では、内部監査の所見の中で、これら2つの指摘が占める割合は、80%以上であることも決して少なくありません。空欄や承認もれの指摘が悪いと言うわけでありませんが、貴重な時間を費やして実施した内部監査で、食品安全マネジメントシステムが適切に機能しているかどうかのチェックもされず、ただ空欄や承認もれの指摘だけでは、内部監査を行う意味がありません。
では、なぜ準備不足が、空欄や承認もれの指摘の原因になるのかを、A社の事例により順を追って説明します。
①A社は、内部監査においてISO事務局(又は食品安全チーム)が作成した標準チェックリストと、監査員がその都度作成したチェックリストを用いて監査する手順になっている。
②内部監査の手順には、内部監査員は、チェックリストの作成にあたり、被監査部署に関連する食品安全マニュアルをはじめとするFSMS関連文書の確認、および過去の問題点を把握し、これに係わる質問をチェックリストに反映させる、と定めている。
③内部監査員のB氏は、業務が多忙であることを理由に、全く事前準備をすることなく内部監査に臨んだ。
④B氏は、被監査部署から差し出される記録、文書を確認し、そこに空欄(承認もれ)を見つけると、それを不適合として指摘した。B氏は、これで、被監査部署の問題点を指摘する自らの役割を果たすことができたと満足する。
⑤事前準備を怠ったB氏は、被監査部署の活動内容を把握していないため、提示された文書や記録の中身を確認することなく、限られた時間の中で空欄探しを続ける。
この状態では、FSMSの表面上の調査に終始し、的を射た指摘ができないのは、誰がみても明らかです。
次に、どれだけの時間をかけて、どのような準備をすれば効果的な内部監査ができるのかについて、量と質に分けて説明します。
①量: 内部監査の準備には、内部監査で費やす程度の時間をかける。
②質: 内部監査の調査は、「変新※後」に注意する。
①量: 内部監査の準備時間
内部監査の準備には、内部監査で費やす程度の時間をかけます。事前準備では、被監査部署の食品安全マネジメントシステム関連文書の確認、および過去の問題点を把握するのはもちろん、活動記録も入手し、内部監査における質問はどこに重点をおくか、調査をするために必要な監査証拠は何かなどを、これらの資料を基に、予め決めておくのです。
筆者は、ISO研修機関で、食品安全マネジメントシステムと品質マネジメントシステムの審査員研修講師を150回以上務めています。筆者は、自ら審査に臨むとき、最低半日の時間を費やし事前準備をするので、受講生(審査員候補者)の皆さんに、研修の場でで「少なくとも半日、できれば1日を審査の準備に当てなければ組織のマネジメントシステムを客観的に評価できない」と言い続けています。認証審査を行うプロの審査員が、準備に半日を費やすのに対し、年に1度か2度しか監査をする機会のない内部監査員が、準備せずに監査に臨んで、的を射た指摘などできるはずはありません。
②質: 調査のポイントは「変新※後」
筆者の子供の頃のヒーローといえばスーパーマン。普段は気弱で頼りない新聞記者が、大事件が起こるとスーパーマンに変身し、悪者を退治する。これがお決まりのパターンでした。今思えば、スーパーマンは、ウルトラマンや仮面ライダーなど変身もののヒーローの先駆けだったのかもしれません。変身もののヒーローの魅力は何と言っても「変身後」にあります。
内部監査の事前準備でも、目の付け所は「変新※後」にあります。
変:内部監査では、工程、機械・設備の変更やそれに伴う手順の変更などの変化に対して、適切な対応が図られているかどうかを確認しなければなりません。そのために、いつ、どの工程で、何の目的で、どのような変更が行われたかに関する情報を、事前に入手します。
新:食品会社では、新製品の開発に日々取り組んでいます。新製品に係わる工程管理に、項目のもれはないか、新たな設備・機械に係わるハザード分析は適切に実施されているかどうかを確認しなければなりません。内部監査員は、その調査に必要な情報を予め入手しておきます。更に、新規採用、配置転換により、新たな業務に就いた要員が、適切に業務を遂行しているかどうかを調べるための情報も集めておきます。
後:「喉元過ぎれば熱さを忘れる」
クレーム、トラブル、不適合などの問題に関して、監査でその後の状態を確認したとき、ことわざが筆者の頭にふと浮かぶことがあります。全社一丸となって解決にあたった問題にもかかわらず、その問題が解決して6ヶ月も経たない内に、元の木阿弥、同様の問題が再発したなどという事例をよく見かけます。内部監査員は、過去に発生した問題について、発生した経緯、問題の原因とその処置、水平展開した範囲と内容などを、事前に調査し、内部監査でその処置の有効性が維持されているかどうか確認するのです。
これらの情報は、内部監査の場で、被監査者から聞き出すことができるにもかかわらず、なぜ、わざわざ事前にそれを調査しなければならないのでしょうか。
その答えは、私たちが被監査者の立場に立つと分かります。内部監査員から質問をされたとき、被監査者の私たちは、自らが認識している範囲のことだけを説明します。私たちは、気づいていないことや都合の悪いことは監査員に説明しません。しかし、実際は、私たちが気づいていないこと、都合の悪いことに問題が隠されているのです。
問題というのは、そこにすでに存在していても、それを問題として認識していないが故に、突然発生したかのように私たちの目の前に現れます。内部監査は、問題そのものが、身近に存在することを気づく場なのです。
内部監査員は、内部監査で何を調べるのか、そのためにどの資料を説明してもらうのか、どの工程を観察するのかを予め決めておきます。
入念な事前準備なくして、企業活動にとって有用な所見は得られません。すでに内部監査は、準備のときから始まっているのです。
次回は、監査証拠の説明とその収集について述べる予定です。
鶏卵肉情報センター『月刊HACCP』誌に掲載した連載記事「ISO 22000の内部監査を活かす」 2012年4月号より
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