このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
3.サービスの特徴
「これ高すぎるよ。もっとサービスして。」、「2つで○○円。もう1つサービスして3つでも同じ値段。」、「付属品はサービスするから。」
このようにサービスは、値引き、おまけ、ただ(無料)という意味で使われることがあります。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ではサービスを次のように説明しています。
サービス(英:service)とは、経済用語において、売り買いした後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のことである。第三次産業が取り扱う商品である。法令用語では、役務(えきむ)ともいう。なお、日常用語としては、無料ないし値引きという意味でも用いられる。
この特集記事で用いる『サービス』の意味は、経済用語における『形のない財。第三次産業が取り扱う商品』であり、お客様から対価がもらえる商品価値を持つものとして用います。
サービスを工場で生産される製品(モノ)と比較すると、際だつ4つの特徴を挙げることができます。
(1)無形性
(2)生産と消費の同時性
(3)顧客との共同作業
(4)結果と過程の等価的重要性
(1)無形性
モノには形がありますが、サービスには形が無いので、保管ができず、再現もできません。そして、顧客は事前確認をすることができないため、不安を感じます。
形のないサービスをいかに『見える化』すること。それが『無形性』という特徴に対して考慮すべきことといえます。
(2)生産と消費の同時性
時間の流れの中で、モノは生産をする時点と消費をする時点は異なりますが、サービスは顧客に提供されると同時に消費されてしまいます。モノは、生産後の製品検査により、顧客に不良品を引き渡すことを防止できますが、サービスはそれができません。だからこそ、顧客と接する一つ一つの瞬間が大切であり、それが顧客満足を左右する『そのとき』となります。
(3)顧客との共同作業
モノは工場で生産され、別の場所で消費されるのが一般的です。従って、顧客がモノの生産に直接関わることは殆どありません。しかし、昨今、情報技術の進歩により消費者である顧客が生産に関与するケースが出てきました。アルビン・トフラーは1980年『第三の波』のなかで、生産に関与する消費者のことをプロシューマー(プロデューサー+コンシューマー)と呼び、このときすでにプロシューマーが現れることを予測していました。
さて、話を元に戻しますが、サービスの提供は、顧客とサービスを提供する人(従業員)が接する場で行われます。そこでは、顧客の役割と従業員の役割が決まっており、それぞれが自分の役割を果たします。例えば、レストランでは、注文をする役割は顧客、料理を運ぶ、後かたづけをする役割は従業員です。ただ、セルフサービスのレストランでは、料理を運ぶ、後かたづけをすることも顧客の役割になります。顧客がその役割を果たしてくれたら問題はありませんが、そうでない場合、従業員は臨機応変な対応が必要です。『顧客との共同作業』という特徴に対して考慮すべきことは、顧客満足を達成するための従業員の教育・訓練、力量であり、これに裏付けされたエンパワーメント(自らの判断で活動できる裁量権)を従業員に与えることも大切なことです。
(4)結果と過程の等価的重要性
先述のようにサービスは、第三次産業が取り扱う商品であるといえます。商品であれば、当然、その品質の良し悪しが評価されることになりますが、サービスの品質は、『過程の品質』と、『結果の品質』の両方に及びます。例えば、歯科医で虫歯の治療を受けるとき、『結果の品質』は、治療の出来映えを指し、『過程の品質』は、歯科医及び看護士の態度の良し悪し、治療時における苦痛の程度、治療に要する時間の長短などが相当します。治療を受けた患者(顧客)は、『サービスの品質』=『過程の品質』+『結果の品質』で評価します。モノは、製造過程において、顧客が関与しないので、『過程の品質』は評価の対象にはなりません。
4.サービス・トライアングル
サービスマネジメントは、顧客満足を維持、拡大するための質の高いサービスを提供する仕組みをいいます。(図9)は、サービスマネジメントに係わる重要な4つの要素について、その相互関係を表したものであり、サービス・トライアングルといいます。
この図の中心には、『顧客』が配置され、企業における活動の全ては、『顧客』の期待を超えるためにあることを明示しています。
『サービス戦略』には、顧客のために何をしなければならないのかが明確にされており、それを組織全員が理解し、実践することが重要になります。
『人』とは、顧客の期待を超えるサービスを提供するために、常に顧客のことを考えて行動する従業員を指します。このような従業員には、必要な力量が備わるための教育・訓練を行いますが、そこで得られる知識、技能、経験だけでは十分とはいえません。それらに加え、仕事に対する誇りとやる気が大切であり、そのためには、企業は従業員満足に取り組まなければなりません。従業員満足と従業員のモチベーションを高めるためには、従業員を、企業価値を高める内部顧客として扱うことが大切です。
『システム』は、顧客と接するフロントヤードとこれを支えるバックヤードにおける役割に分かれます。例えば、筆者が携わる研修サービスでは、フロントヤードは講師、事務局、お客様窓口など直接お客様と接点をもつ業務であり、バックヤードはテキスト、研修会場の準備をする縁の下の力持ち的な役割をする業務といえます。製造業では、フロントヤードは営業・販売部門であり、バックヤードは設計、原材料調達、製造、その他、管理部門ということができます。良質なサービスを提供する上では、フロントヤードとバックヤードの密接な連携が必要であり、相互のコミュニケーションは特に重要といえます。
5.マーケット・インからマーケット・アウトへ
企業活動において、事業コンセプトは時代と共に変わってきました。いや、企業が生き残るために、変えてきたと言った方が正しいかもしれません。
モノを作れば売れていた時代には、企業は自分の都合でモノを作り、それを顧客に売りつけていました。これをプロダクト・アウトといいます。
次第にモノが足りてくると、顧客にとって必要のないモノは売れなくなりました。そこで、企業は顧客のニーズ、シーズを把握し、これに合うモノ作りをするようになりました。これをマーケット・インといい、この考え方は、現在の企業活動において主流となっています。
現在は、更にモノ余りの状態が進み、企業は顧客各自の要求に応えなければならなくなりました。そのためには、マーケット・インというアプローチでは対応が難しくなってきました。そこで、それに代わり、これからは、マーケット・アウトの時代なるといわれています。マーケット・アウトとは、企業がお客様と同じ立場で、お客様のために、お客様と一緒に、お客様にとって必要なモノを見つけ、提供するという考え方です。
この考え方の根底には、もちろん、顧客の期待を超えるサービスを提供することがあります。サービスマネジメントは、マーケット・アウトを実現するためのツールといってよいでしょう。
6.本章のまとめ
本章では、サービスの特徴などを解説しました。これを営業・販売及びサービスのQMSに活用するためのポイントは第2章で、EMSに活用するためのポイントは第3章で述べます。本章の最後に、第1章で説明したキーワードをまとめました。第2章、第3章を読むときにご活用ください。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO -私たちの会社は顧客の期待を超える- 」より
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