このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
昨年の11月にISO 9001が2008年度版に改訂されました(注1)。
今回の改訂では、要求事項の変更はなく、
① 要求事項の明確化
② 公式解釈を必要とする曖昧さの除去、
③ ISO 14001との整合性の向上
が、主な改訂内容ですが、『Output Matters』という考え方が、この改訂には反映されています。
『Output Matters』は、『成果が大切』と訳しますが、その意味は、次の通りです。
ISO 9001に基づく活動は、要求事項に適合することは重要であるが、それは手段であり、適合した製品(サービス)を顧客に提供することが大切である。
『Output Matters』という考え方をISO 9001に反映した背景には、ISO 9001の認証を取得していながら、製品(サービス)の要求事項を満たすことができない組織が無視できない程、存在しているという事実があります。
元々、ISO 9001という規格が作られたいきさつは、間違いのない製品を得る手段として、製品検査だけでは信頼できないことから、製品を作り出す仕組みに目を向けたところにあります。『Output Matters』は、そのことを再認識するための言葉として捉えることができます。
ISO 9001に適合した製品(サービス)を顧客に提供することは当然のことであり、更に、ISO 9001を企業の利益に繋がる道具として使うことが大切であると、筆者は考えます。
さて、本章では、営業・販売及びサービス業の活動に役立つQMS(品質マネジメントシステム)のポイントをいくつか挙げ、これを説明していきます。この記事で、『ISO 9001は製造業だけのもの』
という間違った先入観を払拭し、
『ISO 9001は、サービス業にも役立つもの』
ということを、分かっていただければ幸いです。
なお、以下でサービス業と述べている箇所は、特に説明がなければ、製造業の営業・販売業務も含みます。
(注1) JIS Q 9001は、2008年12月に改訂されました。
2.QMSへの活用のポイント
サービスを工場で生産される製品(モノ)と比較すると、①無形性、②生産と消費の同時性、③顧客との共同作業、④結果と過程の等価的重要性という4つの特徴があることは、第1章で述べました。(第1章の最後に、これらのキーワードの説明を載せていますので参照してください)
これらサービスの特徴を考慮し、『文書化の必要性』、『サービスの管理』、『サービスの設計・開発』、について説明をします。
これらの表題の説明に関連するISO 9001の条項は、次の①~⑧であり(注2)、それぞれの関連性を(図2)に示します。
①文書化に関する要求事項(4.2)
②品質方針(5.3)と品質目標(5.4.1)
③力量、教育・訓練及び認識(6.2.2)
④サービス提供の管理(7.5.1)とサービス提供に関するプロセスの妥当性確認(7.5.2)
⑤責任及び権限(5.5.1)
⑥設計・開発(7.3)
⑦サービスの監視及び測定(8.2.4)
⑧不適合サービスの管理 (8.3)
(注2) ( )の中は、ISO 9001の関連する条項番号を表します。ISO 9001で『製品』と表現されている箇所を『サービス』として置き換えています。
3.文書化の必要性
サービス業のQMSにおいて、文書化に係わるポイントは、次のとおりです。
◇顧客のためにQMSを文書化する。仕組みを『見える化』することで、顧客に安心してもらう。
◇従業員のためにQMSを文書化する。仕組みを『見える化』することで、従業員の業務に取り組む意欲やモチベーションを高める。
◇作業手順(業務マニュアル)の必要性、詳しさの程度は自組織が決める。
「ISO 9001は細かい内容の文書を沢山作らないといけないから大変」、「必要のない文書が増えて困る」など、文書については誤解が多いようです。まず、このような誤解を解いてみたいと思います。
(1)何を文書化するのか
品質マネジメントシステム(QMS)は、組織のトップが品質方針を掲げ、関係部門が品質目標を策定し、これを実現するための仕組みです。従って、組織の全員が、品質方針、品質目標及びQMSの概要を理解しなければなりません。そのために、品質方針、品質目標、QMSを文書化するのです(図3参照)。文書化により『見える化』することは、組織の全員が共通認識できるという意味で、とても有意義なことといえます。
(2)どこまで詳しい文書が必要なのか
一般的にQMSの概要は、品質マニュアルに記述します。品質マニュアル、主要な業務手順を記した規定、作業のやり方を記した作業手順書(業務マニュアル)などの文書の詳しさの程度については、組織の状況、業務内容、要員の力量に基づき、組織が決めます(図3参照)。
『詳しくしないこと』と『曖昧にすること』を同じ意味で捉えている企業がありますが、これは間違いです。曖昧とは、5W1H(Who(誰が)、What(何を)、When(いつ)、Where(どこで)、Why(なぜ)とHow(どのように))がはっきりしない状態をいいますが、詳しさの程度とはHowの程度の違いを指します。活動の内容によっては、When、Where、Whyが特定できない場合がありますが、少なくとも、文書にはWho、What、Howをはっきりさせなければなりません。
(3)サービス業における文書化の留意点
さて、サービス業にとって、文書化はどのような意味を持つのでしょうか。
まず、第一に、形のないサービスを『有形化』して、顧客にその姿を見えるようにすることです。サービスには形が無いため、顧客は、事前に確認することができません。一般的には、これを補うため、組織はパンフレット、ホームページなどでサービスの内容を紹介する、これまでの実績を記す、お試し体験で事前に体験してもらう、など様々な工夫をしています。
これらに加え、組織が顧客のために何を考え、どのような活動をしているかを顧客に知ってもらうため、品質マニュアルなどの文書をコミュニケーションツールにするのです。
品質マニュアルなどの文書を通じて、顧客に組織の企業活動が理解され、一層の安心感を与えることができます。
第二に、従業員の業務に取り組む意欲やモチベーションを高めることに活用することです。品質マニュアルなどのQMS文書は、組織の向かう方向性を明らかにし、これにより、従業員は、自らの業務の大切さ、そしてこれからやらなければならないことに気づくことができます。つまり、顧客満足の達成に向けた組織全員のベクトル合わせ、従業員の意識付けに役立つのです(図4参照)。
QMSを効果的に活用している企業の経営者は、QMSのメリットを、口を揃えて「従業員が自ら考え、それを行動に移すことができるようになったこと。」と言います。
第4章で紹介するアティスインターナショナルアカデミー(以下、日本語学校と略す)では、職員のため、そして日本語学校と関係のある外部の人達のために、図、絵、写真と文書を組み合わせた品質マニュアルを作っています。そして、品質目標及びQMSの枠組みにより、職員のモチベーションを高めることを実践しています(第4章 参照)。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO -私たちの会社は顧客の期待を超える- 」より
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