このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
企業を永続的に存続させるためには、顧客満足を継続的に追求していかなければならないことは、誰もが知るところです。顧客満足の実現を図るため、『顧客満足経営』のスローガンを掲げている企業を見かけますが、本当に顧客の立場を理解し、顧客にとって役に立つことをしている企業は、それほど多くはありません。『顧客満足経営』は唱えるものではなく、実際に顧客満足を維持、拡大し続けることなのです。これができるかどうかで、企業の存在価値が決まると言っても過言ではないでしょう。
サービスマネジメントは、顧客満足を維持、拡大するために質の高いサービスを提供する仕組みをいいます。本章では、サービスマネジメントの根底となる考え方を述べ、営業・販売及びサービス業のQMS、EMSへの活用のヒントを提供します。
2.サービスの構成要素
誰もが、仕事やプライベートな旅行で鉄道を使った経験があるのではないでしょうか。筆者も仕事で全国各地に行き、その移動には鉄道を使います。そこで、JRの旅客業務に係わる事例により、サービスの構成要素について説明したいと思います。
事例1: 列車ホテルでぐったり
まず、(資料1)をご覧ください。これは、1998年8月31日の毎日新聞夕刊に載った新聞記事です。この記事、写真の中央で寝ている(振りをしている)のが筆者です。家族旅行の帰途で集中豪雨に見舞われ、筆者たちが乗った電車は6時間以上遅れ、午前1時過ぎ名古屋駅に到着しました。すでに在来線の電車はなく、写真はJRが準備した車中で仮眠をとっているところを撮影されたものです。
JRの運行は、通常、ダイヤが乱れることはあまりありませんが、雨、風、雪などの気象条件により、大きな影響を受けることがあります。事例1のような状況下では、JRはお客様に対して、臨機応変に対応しなければなりません。『定常業務だけでは済まされない様々な事態に対するサービス』をコンティンジェント・サービス(contingent service)といいます。
事例2: 線路内に入った人がひかり号に衝撃した
昨年(2008年)の7月8日午後3時30分頃、筆者は名古屋から新大阪に向かう新幹線に乗りました。予定の時間が過ぎたのですが、筆者が乗ったのぞみは、なかなか発車しません。そのうち、車内でアナウンスが流れ、電光掲示盤に次のような表示が流れました。『線路内に入った人がひかり号に衝撃し、発車が遅れます。』
当時、北海道の洞爺湖ではサミットが開催されていたこともあり、筆者は、この電光掲示盤のメッセージを見て、とっさに、東海道新幹線の沿線上でテロが発生したと思いました。しかし、テロは筆者の早とちりで、事実は、人が線路内に入りひかり号に跳ねられた事故でした。ちなみに、筆者の勘違いの原因は、『衝撃』ということばを『襲撃』と勝手に決め込んだことにありました。
結局、筆者が乗ったのぞみ号は、予定より1時間遅れて名古屋駅を出発しました。当日は移動日であったため、筆者にとって新幹線の遅れで、仕事に差し障りはでませんでしたが、他の乗客の中には、何らかの影響を受けた人もいたと思います。
JRの旅客業務では、本来業務は『お客様を目的地まで、安全に、ジャストインタイムで運ぶこと』といえます。この本来業務に係わるサービスをコア・サービス(core service)といいます。
事例3: 向かって左の車窓をご覧ください。遠くに富士山が見えます
2006年の10月、晴天に恵まれたその日、筆者は、仕事で名古屋から仙台に向かいました。東海道新幹線が富士川を渡る地点に差し掛かると、左手に富士山を車窓一面に見ることができました。筆者は、仕事で毎月何度か東京に出張しますが、このように美しい富士山を鮮明に見ることができるのは、希であり、少し得をした気分になりました。
東京駅で東北新幹線に乗り換え、大宮を過ぎてまもなく、車内で次のようなアナウンスがありました。『向かって左の車窓をご覧ください。遠くに富士山が見えます。』
このアナウンスを聞いた乗客は、遠く、小さく見える富士山を眺め、『富士山をみることができて良かったね。きれいだね、富士山。』と大変喜んでいました。
『向かって左の車窓をご覧ください。遠くに富士山が見えます。』というアナウンスにより、筆者の周りにいた乗客は、遙か遠くの富士山を、大変喜んで見ていました。筆者はというと、大宮付近でも富士山が見えるという事実に少し驚かされていました。
これは後で分かったことですが、担当乗務員は、このアナウンスを業務マニュアルに従って流したのではなく、とっさの判断で、きれいな富士山が見えることを乗客に知らせたのでした。
JRの旅客業務のうち、客室乗務員のアナウンス、音楽番組の提供、インターネットに必要な無線LAN環境の整備、ワゴンによる飲食物の販売などは、『コア・サービスに付随する副次的なサービス』であり、サブ・サービス(sub service)といいます。
ここで改めて整理すると、サービスを構成する要素には、(1)コア・サービス、(2)サブ・サービス、(3)コンティンジェント・サービスがあり、サービスはこれらの要素が束になったものであると捉えることができます。
(図4)は、それぞれのサービスの要素が顧客満足度に与える影響について、一般的な傾向を表した図です。コア・サービスは、充足していても、顧客にとって当たり前として受け取られ、不足しているときは、不満足に繋がります。JRの旅客業務で例えると、乗客は、目的地に予定通りに到着しても何とも思いませんが、電車が遅れる、又は運休になれば不満を感じます。
サブ・サービスは、劣っていても、あまり不満は感じませんが、優れたものは顧客に感動を与えるほどのインパクトがあります。これについてJRの旅客業務を例に挙げて詳しく述べます。あまり知られていませんが、東海道新幹線の中では、FMラジオでJR東海が制作した番組を聞くことができます。筆者は以前このサービスを利用したことがありますが、趣味に合う局がないので、その後は利用していません。このサービスが、乗客の移動をより快適にするために提供されているものだとすれば、もう少し検討を加えて、もっと乗客に喜んでもらえるサービスを考えることができると思います。新幹線に乗っている乗客を観察すると、(1)眠っていたい、(2)音楽を聞きたい、(3)映像を楽しみたい、(4)仕事がしたい、(5)景色をボーと眺めていたい、などに層別をすることができます。乗客のそれぞれのニーズに合ったサービスが提供できれば、乗客の満足度はグンと上がります。ちなみに、(1)に分類される筆者としては、乗り過ごさないため、目的地に到着する前に起こしてくれる『目覚まし』サービスがあれば嬉しいのですが。
コンティンジェント・サービスは、その場の対応次第で、不満足にも満足にもなるものといえます。JRの旅客業務では、気象条件などの影響への対応は、すでに想定できる範囲であれば、そのサービスは当然のことといえます。前述した列車ホテルがその一例です。一方、全く想定外のできごとが発生したときに、迅速に、しかも的確な対応ができたときは、おそらく、顧客に感動を与えることができるでしょう。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO -私たちの会社は顧客の期待を超える- 」より
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