このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
「元気そうですね」「カラ元気だけど、これだけが取り柄だからね」 などのやりとりは、年に1回~2回の頻度で訪問するコンサル先での従業員さんとの会話の一部である。私は、ISO 9001の審査登録後も引き続きコンサルティングを請けおい、品質マネジメントシステム(以下QMSと略す)改善のお手伝いをしている。このコンサルティングでは、QMSに関わる最新の情報や事前にリクエストして頂いたテーマを1時間程度で講演をしたり、QMSの状態を診断したり、具体的な問題の解決策を一緒に考えたりすることが主な内容である。このように半年、又は1年という間隔で訪問するとき、私には、2つの楽しみがある。1つは、人財(ひと)の成長であり(図1 参照)、もう1つは、QMSの成長を観ることである。
QMSには、人財(ひと)の成長に関わる要素として、「6.2.2力量,認識及び教育・訓練」がある。この6.2.2の要求事項の範囲に留まらず、QMS活動により、管理職から一般の従業員までどのように変わった(成長した)のかを観ることが、私の1つ目の楽しみである。
一方、QMSも世の中の情勢や顧客及び自社の変化により成長していくものである。私は、コンサル先の品質マニュアルを手にしたとき、まず、興味をもって確認するところは改定履歴である(表1 参照)。
改訂履歴には、QMSの成長や変化の足跡が記される。私は、コンサル先の会社が、この半年又は1年の間にQMSをどのように使い、経験や知恵をどこに活かし、何を変えたのだろうかなどを観ることが、もう1つの楽しみである。
QMSは、構築及び登録することが目的ではなく、QMSを使ってクレームの低減、不良率の減少などの成果を上げることにある。
現状のQMSで問題が起きたり、成果が上がらないときには、QMSは見直され、改善され、改訂がかけられる。構築した当初のQMSは、未熟である(周囲の環境が変化するため、QMSが固定されることはない)ため継続的にQMSを使っていれば必ず改訂がかけられる。従って、改訂履歴は、「QMSを上手に使おう」とそれまで言い続けてきた私のコンサルティングの成果が問われるところでもある。
今回は、「QMSで人を育てること」及び「QMSそのものを育てる」ことについて、事例をもとに、その考え方や取り組み方を述べる。
2.QMSで人を育てる
A社は、得意先からの要請を受けISO9001の審査登録を目指すことになった。社長は、ISO9001に基づく仕組みを作るだけではなく、日頃からやらなければならないと思ってきたことを実現するチャンスと考えた。
社長は、次の4つの目的を掲げ、審査登録に向け取り組んだ。キックオフでは、従業員に、①~③を審査登録の目的として説明した(図2 参照)。
①得意先からの要請に応える
②我が社の活性化
③ポカミスの防止
④人財(幹部候補生)の育成
④は、従業員の前では触れず、社長が密かに考えたことである。次代の幹部を、ISO事務局長に任命し、QMS構築活動を通じて育成しようとした。50名の従業員(内20名はパート勤務)の中から悩んだ末に、ISO事務局長の人選を、半年前に中途で採用したHさんに決めた。Hさんは、前任先の会社で6年間勤務し、ISOの経験はないものの、物事を前向きに考え、人のいやがる仕事もこなし、皆からも好かれる性格であった。ただ、まだ入社して年月が浅く、業務への精通に欠けることが心配であった。
なお、社長は、管理責任者を、すでに経験豊富な製造部長と決め、ISO事務局長をサポートするように指示していた。
この先、A社のQMS構築活動の課程の中で、Hさんの活躍ぶりは次のとおりである(図3 参照)。
Hさんの5ヶ月間の活動の中で、大きく目を引いたのは、次の2点である。
①活動開始後1~2ヶ月間における関係者への聴き取り調査の熱心さ及び優れた検証。
②5ヶ月経過以降の従業員(部課長を含む)のHさんへの対応変化。
①では、現状把握の調査のために、Hさんは、現場に何度も足を運んだ。そして、自らの目で確認した現状に基づき各課で作成した業務フロー図を検証した。Hさんは、業務フロー図(業務のやり方)と現場の確認(業務の実施)双方からの学習でA社の実務を短時間で理解することができたのである。
②における変化とは、入社し1年も満たないHさんに長年勤めているベテランが業務内容の確認をするようになったことである。Hさんは、入社1年を経ずにして、最もA社の業務の流れを理解している人になったのである。
社長の目的の1つである人財(幹部候補生)育成は、効率的(少ない資源で)に達成できたのである。
本事例における成功のポイントは次の点にある。
1.トップ自ら目的(次代の幹部を育てる)を明確にしたこと。この目的を達成する手段としてHさんを事務局長に任命した。
2.Hさんに事務局長としての権限を与えたこと。
3.経験豊富な製造部長がH氏をサポートし、的確なアドバイスをしたこと。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「中小企業だから実現した儲かるISOのコツ」の第2章「人も仕組みも育てるもの」より
図1 中央製乳株式会社のクレド |
図1 中央製乳株式会社のクレド |
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