このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
心理学者、アブラハム・マズローが、人間の基本的欲求を、5段階に分類したのを、ご存じの方もいらっしゃると思います。
この5つの段階とは、低次レベルから、①生理的欲求、②安全の欲求、③所属と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求、をいいます(図1参照)。ここでは、その説明は省略しますが、例えば、これを法人(企業)にあてはめてみると、さしずめ、企業の基本的欲求を、次のように説明できるのではないでしょうか。
① 生理的欲求: 製品は、安かろう、悪かろうでいいから、とにかく自社の利益だけを追求する。
② 安全の欲求: 会社を組織化する。継続的に製品を製造し、安定した収入を得ようとする。
③ 所属と愛の欲求: 社会の一員として、受け入れられる企業活動をしようとする。
④ 承認の欲求: 他の会社よりも価値のある存在として、社会から認められる企業活動を目指す。
⑤ 自己実現の欲求: 自社の能力を最大限発揮し、これを実現したいとする。
企業は、低次レベルから高次レベルの欲求を満たすため、進化していると考えられます。これら5つの段階の全てにおいて、ISO 9001品質マネジメントシステム(以下、QMSと略す)が、有効に機能するかというと、そうではありません。
レベル①で留まっている企業は、それほど多くはないと思いますが、時に、偽装表示で消費者を騙すなど、法や顧客を欺いてまでも、自社の利益を上げるような企業が、まだ存在しているのも事実です。このようなレベル①の企業には、QMSは無用の長物にほかなりません。それは、QMSが、トップ自らの法令・規制の遵守と、顧客満足を果たすためのコミットメント(腹を切る覚悟)とその実践を求めているからです(ISO 9001 5.1a)参照)。
レベル②~⑤の段階にある企業にとって、QMSほど自由度が高く、使いやすいツールは、そう多くはありません。トップがこれから目指す方向(品質方針)を示し、当面のゴールライン(品質目標)を定め、その達成に向けた活動を、全員参加で推し進める(ISO 9001 5.3及び5.4.1参照)。目標は、身の丈に合わせて設定できるので、どのレベルにあっても、更に上位のレベルに向けた活動に、QMSを用いることができるのです。
例えば、レベル②にある企業が、レベル③にステップアップしたいとき、「社会の一員として、受け入れられる」ために必要なことを念頭に置き、品質目標を定める。あとは、ISO 9001の要求事項に従って活動すれば、時間がどれだけかかるかは別として、レベルアップが可能です。このようにISO 9001は、見様見真似で運用しても、レベル④までのステップアップには、活用できる要素を備えている規格です。問題は、レベル⑤へのステップアップを目指すときです。ISO 9001は、企業として、社会から価値のある存在として認められるべき要素は備えています。しかし、更にこの上にある、レベル⑤に係わる全ての要素は含んでいません。そのため、レベル④で足踏みをしている企業が、少なくないのではないでしょうか。
そこで、本章では、レベル⑤へのステップアップに向けて、必要な要素を織り込んだ、QMSの効果的な活用 5つのパターンについて説明します。
2.QMS活用の原則
これまでのコンサルティング、講師活動を通じて、数多くの企業をサポートしてきた筆者の経験に基づき、QMSを効果的に活用するためのポイントを、5つに集約し、「QMSの効果的な活用 5つのパターン」としてまとめました(図2参照)。
Ⅰ.特定のQMS要素を徹底活用
Ⅱ.他のマネジメントシステム要素の活用
Ⅲ.他の管理技術とのシナジー効果による活用
Ⅳ.機能別管理でヨコの繋がりを活用
Ⅴ.サプライチェーンによる活用
この5つのパターンは、QMSを効果的に活用するための切り口を示すものであり、1つのパターンを参考にすることもできますし、複数のパターンを組み合わせて使用することもできます。
この5つのパターンは、次のセクションから説明することにし、ひとまず、QMSを活用するための原則を述べることにします。
規格の要求事項には、とらわれない
ISO 9001(以下、規格と略す)の認証を受けるためには、規格の要求事項を満たさなければなりません。これに対して、「規格の要求事項には、とらわれない」という原則は、規格の要求事項を無視して良いと誤解を招くかもしれません。その意味を、改めてここで説明します(図3参照)。
その意味は、要求事項に適合させることだけにとらわれて、狭い視野にならないようにすることが肝要であることを言っているのです。つまり、「木を見て森を見ず」の諺にもあるように、本質的なところを見失わないことが大切なのです。規格要求事項を適合と判定できる範囲は、結構広いのです。
これから説明するQMS活用の5パターンは、要求事項の範囲を更に広げた考え方であることを、まず理解して下さい。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特集記事「QMSを効果的に活用するための5つのパターン -成功事例に学ぶ- 第1章 QMSの効果的な活用 5つのパターン」より
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