このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
1.はじめに
今から約10年前、筆者は、製造業を営むA社から、「顧客クレームを低減したいので協力してほしい」との依頼を受けました。早速、A社の業務内容を調査したところ、A社の仕事には、次の2つの特徴があることが分かりました。
◇受注した仕事の70%を外部に委託している
◇外部に委託する仕事は、個々の営業部員が管理している
A社では、社内の設計部門と製造部門のキャパシティーに関係なく仕事を受注し、営業部門が、その仕事を社内で展開するのか、外部に委託するのか判断をしていました。そして、外部委託した仕事については、担当した営業部員自らが、様々な局面に関与していました。
そこで、営業部門の業務内容について、次の項目により、更なる調査を行い、その結果を分析しました。
◇業務の目的は何か
◇業務手順に問題はないか
◇業務の責任者は誰か
◇業務のつながりに問題はないか
◇業務は顧客クレームに係わっていないか
この業務分析によって、顧客クレームの発生に関係するA社の仕組み上の問題点が明らかになりました。
◇外部委託している仕事について、ISO 9001 「7.3 設計・開発」、「7.4 購買」、「7.5 製造及びサービス提供」、「8.2.4 製品の監視及び測定」に係わる責任及び権限があいまいである
◇同上の業務について、明確な手順が定まっていない
これらの問題に対して、改善に向けた取り組みを実施した結果、改善後の顧客クレームは、改善前に比べ90%削減されました。
A社では、長年行われてきた仕事の仕組みそのものの中に、問題が潜んでいた訳ですが、仕事に従事する人達は、誰一人として、その問題を認識していませんでした。A社に限らず、日頃、慣れ親しんでいる業務の中に潜む問題に気づかない、このような事例は、決して珍しくありません。
業務内容を「見える化」して、その役割を明らかにする。そして、他の業務とのつながりを確認することで、業務上の問題点が浮き彫りになる。更に、その問題点を改善する。これは、まさにプロセスアプローチに基づく、業務改善に他なりません。
今回は、プロセスに関連する内容であるISO 9004「7 プロセスの運営管理」、並びに、組織環境を監視するための情報収集及びパフォーマンス指標に関連する内容である「8 監視、測定、分析及びレビュー」の中の「8.1 一般」、「8.2 監視」、「8.3.1 測定 一般」及び「8.3.2 主要パフォーマンス指標」について述べます(表1及び表2参照)。
本稿のポイントは、次の通りです。
◇プロセスアプローチ及びシステムアプローチを深く理解し、これを活用する
◇組織環境を監視するための情報を収集する
◇持続的成功のために必要不可欠な要因をKPIとして定義し、その傾向を把握し処置をする
2.プロセスの運用管理
まず、ISO 9004 「7 プロセスの運用管理」の要点を挙げます。
「7 プロセスの運用管理」の要点
7.1 一般
◇プロセスは、それぞれの組織に固有のものであり、業種、形態、規模、成熟度によって異なる
◇組織の目標を達成するために、アウトソースしたプロセスを含むすべてのプロセスを運営管理する
◇この運用管理は、“プロセスアプローチ”を採用することにより容易に行うことができる
◇プロセス及びそれらの相互関係を定期的にレビューし、それらの改善のために適切な処置をとる
◇プロセスのネットワーク、順序及び相互作用を定め、一つのシステムとして運営管理することが望ましい
◇このシステムの一貫した運営は、“マネジメントへのシステムアプローチ”と呼ばれる
7.2 プロセスの計画策定及び管理
◇プロセスを定め、顧客及びその他の利害関係者のニーズ及び期待を満たす製品を継続的に提供するために必要な機能を明らかにする
◇プロセスは、戦略に沿って計画し、運営管理活動、資源の提供、製品実現、監視、測定及びレビュー活動を取り扱うことが望ましい
◇プロセスの計画策定及び管理は(図1)に示す事項を考慮する
◇プロセスの計画策定では、価値を付加するために、新しい技術を開発又は獲得し、新しい製品又は製品特性を開発するニーズについても考慮する
7.3 プロセスの責任及び権限
◇各プロセスに対して、プロセス及びその他のプロセスとの相互作用を確立、維持、管理、改善するための責任及び権限をもつプロセス管理者(プロセスオーナー)を任命する
◇プロセス管理者の責任、権限及び役割を組織全体に認識させる、並びにプロセスに関連する人々が、関与する業務及び活動のために必要な力量をもつことを確実にする
ISO 9000:2005では、「プロセス」を、次のように定義しています。
インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動
「プロセス」とは、日常行っている業務そのものであり、ISO 9000及び関連規格には、「プロセス」の種類やその大きさに係わる規定は、特にありません。
これから、各箇条のポイントを述べます。
「7.1 一般」では、プロセスを容易に運営管理するために、「プロセスアプローチ」を採用することを薦めています。更に、プロセスをプロセスのネットワーク、順序、相互関係と合わせて一つのシステムとして運営することで、システムを一貫して運営できる「マネジメントへのシステムアプローチ」について言及しています。プロセスの計画策定及び管理については7.2を、プロセスの責任及び権限については7.3を参照してください。
ISO 9004の付属書Bには、品質マネジメントの原則を活用することにより得られる便益及びこれに関連する行動について例示があります。付属書Bから、本稿に関連する「原則4:プロセスアプローチ」及び「原則5:マネジメントへのシステムアプローチ」を取り上げ、(図2)及び(図3)に示します。
更に、「プロセスアプローチ」及び「マネジメントへのシステムアプローチ」の理解を深め、これを有効に活用するために、ISO 10014の「プロセスアプローチ」及び「マネジメントへのシステムアプローチ」を(図4)及び(図5)に示し、達成可能な便益とその達成に向けたPDCAの枠組みを例示します。
「7.2 プロセスの計画策定及び管理」には、プロセスを特定し、その機能を明確にし、それを管理するために考慮しなければならない事項が、(図1)に示されています。ここには、ISO 9004箇条4から箇条9全てに関連する事項が取り上げられており、プロセスの特定には、この規格の内容を参考にすることを示唆しています。
「7.3 プロセスの責任及び権限」では、プロセス管理者に、責任及び権限を与え、プロセス管理者が効果的にプロセスの運営管理を務めます。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「ISO 9004を活用して経営に活かすためのQMSに変える!」 2013年3月号より
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