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このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。

第108話 「利害関係者に対する価値創造能力を高める」(その3)

5.教育訓練のキーワード
ISO 9004 6.3では、「人々の成長」、「学習」、「知識の移転」及び「チームワーク」を促すための環境が必要であることを挙げています。そこで、この環境作りをするために教育訓練を計画するとき、次に、その留意事項について述べます。

(1)「人々を成長」させるための教育訓練
以前、筆者は化学製品の製造会社の工場長から、次のようなトラブルに関する相談を受けました。
「原料を溶剤に混合する工程で、だま(よく溶けずにできた粒状のかたまり)ができて、1ロット全てを不良品として廃棄しなければならなくなりました。作業者は、作業マニュアル通りに作業を行っていたのですが、まだ作業が不慣れであったことから、原料の投入に通常の2倍の時間が掛かってしまいました。撹拌時間は原料の投入時から計測しているので、結果的に混合する時間が短くなって、だまができてしまったのです。いったい再発防止は、どうしたら良いのでしょうか。」
筆者は、この質問に対し次のような回答をしました。
①今回のトラブルを含め、過去に経験したトラブル事例(発生原因を含む)を作業マニュアルに追記する。
②撹拌時間の厳守など製品トラブルにつながる事項、労働災害につながる事項など、逸脱すると製品事故、人身事故の発生が懸念される作業については、事故発生を防止するためのポイントを作業マニュアルに明記する。
③各作業の目的、又は、その作業を失敗したらどうなるか(結果)を作業マニュアルに追記する。
④作業の確認方法を定める。確認方法には、手順を順守したかどうかの確認及び現物の状態の確認を含める。
⑤全ての作業者に、作業手順の徹底を図る。
⑥更に良い方法があれば、作業者の意見を聞く。
 ここに挙げた再発防止対策は、当該の問題に対する再発防止策ですが、その中には、「人々を成長」させるための教育のポイントのいくつかが含まれています。
-なぜ必要なのかその目的を明確にする(③参照)
-体験を伝える(①参照)
-確認する(④参照)
-実際の体験に基づき自ら改善策を考える(⑥参照)
これらの要素の組み合わせが、「人々を成長」させるためのPDCAの一つと言えるのではないでしょうか。

(2)「学習」を促すための教育訓練
従業員に自己研鑽するための「学習」を促すためには、動機付けが大切であることは言うまでもありません。
次に、効果的な学習をするためには、どのような方法で行えばよいかを理解する必要があります。社会心理学の側面から書かれた書籍「仕事と人間関係」に、効果的な学習方法が載っていたので、その内容の一部をここで紹介します(参考文献3参照)。
①チャート化 説明や思考の過程をみるのに便利であり、全体の中でその位置づけが容易に把握できる。
②速読法 焦点読み、かたまり読み、飛ばし読み、斜め読み、キーワード読みなど。
③記憶法 6K集中法(興味、競争、緊迫感、環境、心、体)
④日本国憲法の暗記法 小見出しと人物及び条文のイメージの結合を参考にする。
⑤英熟語の連想暗記法 英語上達のコツは外国人と多く接することを参考にする。
⑥文字式記憶法 パターン認識によって記憶する方法。

(3)「知識を伝承」するための教育訓練
団塊の世代が定年退職を迎えた2007年、当時、この世代の人達が企業から去ったとき、様々な問題が発生するのではと危惧されました。いわゆる、2007年問題です。このとき、その対策の一つとして、団塊の世代が持っていた知識や経験を全てマニュアル化しようとする試みが、多くの企業で行われました。しかし、この時期が過ぎ去ると、いつの間にか知識をマニュアル化する取り組みは下火になってしまいました。
ここで、個人の知識及び経験をマニュアル化する意義について考えてみます。「仕事のスキル-自分を活かし、職場を変える-」(参考文献4参照)では、暗黙知と形式知を(図6)のように定義し、組織における知識創造の過程で、暗黙知と形式知がどのような働きをするのか、そのメカニズムを説明しています(図7参照)。暗黙知を形式知に変換する作業は、表出化のフェーズで行われます。しかし、個人の暗黙知を組織の知識に変換するためには、その後、連結化、内面化、共同化を経由し、更に、この4つのフェーズを繰り返すことで、組織における知識創造が発展すると言うのです。「知識を伝承」するためには、この4つのフェーズに基づく教育訓練の仕組みを構築する必要がありそうです(図6参照)。

 

 

(4)「チームワークを図る」ための教育訓練
チームワークに不可欠なものと言えば、コミュニケーションです。
コミュニケーションプロセスのモデルは、いくつか発表されていますが、ここでは、バーローのSMCRを紹介します(参考文献3参照)。このモデルは、対人コミュニケーションの基本的要素として、送り手、メッセージ、チャンネル、受け手という、コミュニケーションの効果に影響を与える4要素からなります(図8参照)。送り手が意図した内容が十分に受け手に伝わらないとき、その原因は、双方のコミュニケーションスキルの欠如によるところが多いと言われています。例えば、送り手は独自の仕方で記号化する、一方、受け手は自分の知識・経験のフィルターにより選択的に受容する。送り手及び受け手の双方のコミュニケーションスキルの向上が、「チームワークを図る」ための鍵を握っているのです。

 

6.おわりに
2年前、筆者は、K社に同期入社した友人と会う機会を得ました。二人で、ひとしきり昔話に花を咲かせましたが、新入社員研修に係わる話題になったとき、彼は、本稿の冒頭で述べた「社会人になって、一番大切なことは何でしょうか。」と、質問を受けたことを全く覚えていませんでした。
この事象をバーローのSMCRモデルにあてはめると、送り手からの情報が、筆者(一方の受け手)には伝わり、彼(もう一方の受け手)には伝わらなかった(或いは忘れてしまったのかも知れません)、その原因は、送り手、又は受け手のいずれかのコミュニケーションスキルに問題があったのではないでしょうか。
前章では、「チームワークを図る」ためには、コミュニケーションスキルが重要であることを述べましたが、教育をする側と受ける側双方のコミュニケーションスキルは、教育訓練の全ての場面において重要な意味を持つようです。

次回は、「供給者及びパートナの能力を改善する」と題し、ISO 9004 「6.4供給者及びパートナ」、「6.5インフラストラクチャー」「6.6作業環境」について述べる予定です。

(参考文献)
(1)ISO 10015:1999 「品質マネジメント-教育訓練の指針」
(2)ISO 10014:2006 「品質マネジメント-財務的及び経済的便益を実現するための指針」
(3)「仕事と人間関係-社会心理学入門-」(株)ブレーン出版 徳島辰夫著
(4)「仕事のスキル-自分を活かし、職場を変える-」 (株)北大路書房 小口孝司他 編著


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