このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
第97話
「持続的な成功に8原則を活用する」(その1)
今回は、日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「ISO 9004を活用して経営に活かすためのQMSに変える!」から、2012年8月号「持続的な成功に8原則を活用する」を3回(第96話~第99話)に分けてご紹介します。今回は、(その1)を掲載いたします。
先日、焼き肉チェーン店で発生した病原性大腸菌O-111、O-157による食中毒事故(2011年4月)が、日本の生食文化に多大な影響を与えていることを知りました。今月(7月)から牛レバ刺しの全面禁止、更に、鶏刺しにもその影響が波及して、規制の検討を始めたというのです。日本の食文化において、家畜や魚の肉、内蔵、卵などを、生で食するのはごく自然なことですが、先の食中毒事故は、これに一石を投じたのです。6月に放映されたNHKクローズアップ現代「“牛レバ刺し全面禁止”の波紋」が、そのことを伝えていました。
この番組を見ながら、筆者は、2つのことを考えていました。まず、一つ目は、企業活動が社会に与える影響の大きさです。問題の焼き肉チェーン店は、この事故を起こすまでは、安くて、旨いとの評判だったようですが、この事故を機に営業停止となり、ついには廃業に追い込まれました。ただ、何と言っても、お気の毒なのは被害者の皆さんです。楽しい食事の席で、思わぬ危害に遭ったのですから、まさに晴天の霹靂であったに違いありません。しかし、この事故によって影響を受けたのは、被害者(顧客)だけではありません。原材料を供給した会社(供給者)、出資者(株主)、そして廃業に伴って職を失った従業員など、この事故の影響を受けた人たちは、決して少なくないのです。更に、冒頭で述べた牛レバ刺しの全面禁止という、社会全体に影響を及ぼす事態に至ったのです。この事故は、企業活動が、いかに多くの利害関係者に影響を及ぼしているかを、改めて認識させられる出来事だったと言えるのではないでしょうか。
二つ目は、食中毒の発生防止に係わる行政判断の根拠です。この事故をきっかけとして、牛の肝臓を調査したところ、173頭のうち、2頭からO-157が検出された結果が得られました。強い毒性をもつO-157が、仮に牛レバ刺しの内部に存在していた場合、中まで十分に加熱することしか、食中毒の発症を防ぐ手立てはありません。牛の肝臓を調査した客観的なデータが、牛レバ刺しの全面禁止を決定した根拠だったのです。この判断は、食中毒防止のための3原則によるものであると筆者は理解しました。
食中毒防止のための3原則とは、次の3つの事項を指します(図1参照)。
前述したように、牛の肝臓にはすでにO-157が入っている可能性があるので、「つけない」、「増やさない」ための手段を、もはや講じることはできません。食中毒発生の防止には、O-157を「やっつける」ための手段である加熱殺菌しか、方法はないのです。このように、食中毒の予防3原則は、食中毒を防止する答えを導きだすための基礎となる考え方を示しているのです。
ところで、この連載は、ISO 9001に基づく品質マネジメントシステム(以下、QMSと略す)に、ISO 9004の考え方を取り入れることにより、QMSを経営に役立つツールに変えるためのヒントを提供することを目的とします。今回は、ISO 9004 箇条4 「組織の持続的成功のための運営管理」に関連する事項について説明します。本稿のポイントは、次の通りです。
ISO 9004 箇条4 「組織の持続的成功のための運営管理」の構成要素を(表1)に示します。次に、箇条4.1~4.4の要点を述べ、QMS活用のためのヒントについて、解説していきます。
食中毒の予防3原則が、食中毒を防止する答えを導きだすための基礎となる考え方であると同様に、「QMの8原則」は、品質マネジメント規格(ISO 9001及びISO 9004)を導きだした基礎となる考え方と言えます(表2参照)。「QMの8原則」における個々の原則については、関連するISO 9004の箇条の説明の際に、解説していきます。
今回は、「原則2 リーダーシップ」を取り上げ、その説明とQMSへの活用法について述べます。
ISO9004に記述されている内容を、上段(内容説明)、中段(主な便益a)、下段(適用するための必要事項b)に分けて(表3)に示しました。
ここで言うリーダーとは、トップマネジメントのことを指します。組織におけるリーダーはQMSにとって重要であることは言うまでもありません。原則2では、トップマネジメントの役割は、組織の目的及び方向を示し、組織の人たちのベクトルを合わせることを説いています。組織における個々の人たちの意思が一致しなければ、組織活動において、その力は分散してしまい、組織全体として思うような結果が得られません。リーダーが、組織の目的に向かって、組織全員の力を結集させなければならないのです。
次に、現在のQMSを見直すために、この原則を活用する方法を述べます。原則2(表3)の中段a) ①~③をリーダーシップによる「結果」だと捉えると、下段のb) ①~⑦は、その「原因」に当たります。つまり、現状のQMSにおいて、a)の事項が未達であれば、その原因は、b)の事項の中にあるということです。
このことを、更に、具体事例により説明します。QMSの現状を確認した結果、会社方針、目標に対して、従業員の理解が得られていないことが分かったとします。当然、従業員には、目標の達成に向けた意欲的はみられません。このようなときには、
など、b)の事項について自問してみるのです。このような方法により、会社方針、目標が従業員に理解されていない原因が、必ず見つかります。
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した連載記事「ISO 9004を活用して経営に活かすためのQMSに変える!」 2012年8月号より
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