このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
第70話 「QMSは永遠に完成しない」(その2)
今回は、日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌の2013年7月号に掲載した特別記事「QMSのマンネリを打破する!」(前編)を2回(第69話~第70話)に分けてご紹介します。
まず、現在の教育・訓練において、次の事項について確認して下さい。
- (1)毎年、定型的な教育・訓練を行っていませんか。
- (2)教育・訓練の目的と評価基準は定められていますか。
- (1)定型的な教育・訓練
- ここで述べる定型的な教育・訓練とは、すでに用意された定番の教育カリキュラムにより、実施される教育・訓練を言います。毎年、教育対象者だけが変わり、教育・訓練の内容は、固定化されています。
QMSの構築時には、全ての企業において、次のいずれかの背景により、教育・訓練カリキュラムを作成したと考えられます。
◇従来から実施してきた教育・訓練を踏襲
◇ISO 9001要求事項に適合するために導入
◇効果的なQMS活動をするために導入
しかし、QMSの構築後、何年もその内容の見直しがされなかったとしたら、これが現時点の企業活動にとって、果たして役立つ教育・訓練であるかどうか疑問です。
教育・訓練は、一過性の活動ではないので、常にその内容を見直さなければなりません。そのために、教育・訓練のPDCAサイクル(図4参照)を回さなければならないのです。この図において留意しなければならない点は、経営戦略に基づき人材戦略が策定され、人材戦略によって教育・訓練の目的が明確にされなければならないと言うことです。
次に、教育・訓練のPDCAサイクルで実施する事項を挙げます。
P:教育・訓練の計画
◇教育・訓練の目的を明確にする
◇教育・訓練方法を選択する
◇教育・訓練カリキュラムを作成する
◇教育・訓練の評価基準を設定する
◇教育・訓練計画(年度)を策定する
D:教育・訓練の実施
◇教育・訓練計画(年度)に基づき、教育・訓練を実施する
◇進捗管理を行う
C:教育・訓練の評価
◇Pで設定した評価基準に基づき、教育・訓練の成果を評価する
A:教育・訓練に係わる処置
◇教育・訓練方法の見直し
◇教育・訓練カリキュラムの見直し
◇再教育の実施
この中で最も重要なステップは、「P:教育・訓練の計画」と言えます。次に、「P:教育・訓練の計画」の中から、「教育・訓練の目的」及び「教育・訓練の評価基準」を説明します。
- (2)教育・訓練の目的及び評価基準
- 学校における教育・訓練は、個人の能力のレベルアップを目的としてカリキュラムが作られます。授業内容や教材は標準化され、教育・訓練の効果は、その一部ではありますが、試験によって評価できます。
一方、企業における教育・訓練は、個人の能力のレベルアップを図ることに加え、それが企業の業績向上に繋がらなければなりません(図5左参照)。人的資源に対する費用対効果が求められているのです。
教育・訓練の内容は、組織環境の変化により、見直されなければなりません(図5右参照)。そして、教育・訓練が目的を達成できたかどうかを判定するための評価基準を設定する際には、次の二つの事項を考慮します。
◇教育・訓練を受けた当人の評価:教育・訓練に係わる業務の取り組みに対する変化
◇経営及び組織への影響:教育・訓練が業績向上にどれだけ貢献したか
教育・訓練の目的及び評価基準は、Pの段階で明確にします。また、(図4)教育・訓練のPDCAサイクルにおけるC及びAは、マネジメントレビュー場で実施すると良いでしょう。
次に、内部監査の現状について確認して下さい。
- (1)内部監査チェックリストは、定型化されたものを使用し、毎回、同じ質問を繰り返していませんか。
- (2)QMS活動が経営に役立っているかどうか、内部監査で確認していますか。
- (1)定型化したチェックリスト
- 内部監査に用いるチェックリストには、ISO事務局などQMS全体をまとめる部門が予め作成した標準チェックリストと、監査員自らでその都度準備する個別チェックリストがあります。標準チェックリストは、QMS導入の初期段階において、不慣れな内部監査員が調査をするための手引きとして有効です。しかし、同じ型で抜けば、同じ形のクッキーしかできないのと同様に、監査で何度も同じチェックリストを用いることで、図らずも画一的な調査内容になってしまいます(図6上参照)。
内部監査の経験を積んだ監査員は、監査プログラム管理者から与えられた監査の目的に基づき、個別チェックリストを準備すると良いでしょう(図6下参照)。更に、監査チェックリストの作成は、QMSの「変新後」を考慮することで、調査のポイントが明確になります。「変新後」とは、QMSにおける4M(Man、Machine、Material、Method)の変化及び新規事例、並びにトラブルの処置(修正及び是正処置)のその後の状況のことを指します。
チェックリスト作成に当たり、被監査部署に係わる手順の調査を事前に行うことは言うまでもありませんが、可能であれば、記録の内容も事前にチェックすると良いでしょう。被監査部署における活動の手順とその実績を事前に確認しておくことにより、内部監査の場で、的を射た質問ができるのです。
- (2)経営に役立つ内部監査
- ISO 9001 8.2.2では、QMSの適合性及び有効性について、内部監査を通じて調査することが求められています。適合性の調査は、殆どの企業で問題なく実施されているようですが、もう一方の有効性の調査は、あまり上手く行われていないというのが、筆者の感想です。その理由として、有効性の意味を理解していないことが挙げられます。そこで、QMSの有効性について、ISO 9000からQMSの定義を調べてみます。
品質に関して組織を指揮し、管理するための方針及び目標を定め、その目標を達成するための相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり
この定義から導きだせるQMSの有効性とは、「方針及び目標を達成すること」であり、これにより、内部監査では、少なくとも品質方針及び品質目標の達成度を調査しなければならないことが分かります。
更に、2章で述べたようにQMSは、組織の戦略上の決定により導入されたものであるので、経営に役立たなければ意味がありません。つまり、QMSの有効性とは、QMSが経営に役立つことを意味するのです。
それでは、QMSが経営に役立っているかどうかを、内部監査でどのように調査すれば良いのか、これから事例を挙げて説明していきます。
A社は食品の製造会社です。A社の社長は、顧客の信頼を得るために必要な品質保証体制を確立する目的で、5年前にISO 9001に基づくQMSを構築しました。A社にとって、QMSが有効かどうかは、品質保証体制が確立できたかどうかであり、これを内部監査で調査しようとしましたが、あまりにも漠然とした調査になってしまいます。そこで、確立された品質保証体制により期待される効果は何であるか、次に、いくつか挙げてみました。
◇製品表示に誤りがない
◇不適合製品を流出させない
◇顧客からのクレームに迅速に対応する
以下省略
監査プログラム管理者は、来月予定されている内部監査で、監査の目的を、「QMSが製品の誤表示防止に役立っているかどうか」と定め、各監査員に伝えました。
監査員は、製品表示に係わるQMSの関連活動を次のように洗い出しました(主なものを抜粋)。
◇4.2.3 文書管理:製品表示の情報は、文書管理でどのように扱われているか
◇5.5.1 責任及び権限:製品表示に係わる責任及び権限は明確になっているか
◇5.5.3 内部コミュニケーション:製品表示に係わる情報が社内で伝達される仕組みになっているか
◇6.2.2 力量、教育・訓練及び認識:製品表示に係わる仕事に従事する要員は、製品表示に重要性を認識し、関連する情報を伝達する仕組みを理解しているか
◇7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化:製品表示に係わる要求事項を明確にしているか
◇7.2.3 表示間違いがあったとき、顧客からの連絡を受け、迅速に対応できる体制が整っているか
◇7.3.3 設計・開発からのアウトプット:設計開発課におけるアウトプットでは、製品表示の情報をどのように扱っているか
◇7.4.2 購買情報:原材料の成分について正確な情報を伝達するように供給者に対して明確な指示を出しているか
以下省略
具体的な製品の事例を基に、これらの活動を調査した結果、内部コミュニケーション及び教育・訓練に問題があることが判明しました。そこで、これらに関連する手順を見直し、改訂をしました。
ここで述べた事例により、有効性監査の進め方の概略がお分かりになったでしょうか。
ここで、適合性と有効性の調査の違いを一言で表すとすれば、適合性は、「ルール通りにやっているか」を確認するために行うものであり、有効性は、「役に立たないルールを変える必要はないか」を確認するために行われる調査なのです(図7参照)。QMSでは、ルールに従って活動することは言うまでもありませんが、そのルールが役に立たないルールであるのなら見直さなければならないのです。適合性と有効性の調査は、自転車の両輪のようなものです。どちらも、QMSを前に進める上で、欠かせないものなのです。
次回は、「8.4 データの分析」、「8.5.1 継続的改善」及び「5.6 マネジメントレビュー」について述べる予定です。
(参考文献)
「ISOマネジメント」 2012年2月号~6月号「経営に活かすために内部監査を変える!」 日刊工業新聞社
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特別記事「QMSのマンネリを打破する!」 2013年7月号より
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