今回は、日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌2009年10月号特集記事 『製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO』より紹介いたします。
今年(2009年)の7月22日、日本で46年ぶりの皆既日食が観測されました。メディアからの映像により、太陽の周囲に輝くコロナや太陽から炎のように立ち上がるプロミネンスを観ることができ、美しく、幻想的な天文ショーを楽しみました。
46年前の前回、小学生だった筆者は、セルロイド製の下敷きをサングラス代わりにして、太陽の変化を観察していました。次回、日本で皆既日食を観ることができるのは26年後とのことですが、筆者は、その時はもう80歳になっています。平均余命から考えると、今回が筆者にとって、日本で観られる最後の皆既日食になるのかもしれません。
一生の内、2度か3度しか観ることができない天文ショーを観て、筆者は壮大な自然の中、そして時の流れの中で、自分が生かされているのだということを、改めて実感しました。
さて、私たちの営みの中で自然環境への取り組みは、今日では当たり前になりました。毎日の新聞記事に、地球温暖化、太陽光発電、ハイブリッド、電気自動車など、環境に関するキーワードが載らないことはありません。
日本適合性認定協会(JAB)によれば、ISO 14001に基づく環境マネジメントシステム(EMS)の認証件数は、2007年に2万件を超え、第三次産業(広義のサービス業)が、その内の約40%を占めています。
サービス業では、原材料、設備、製品などのような形があるモノを扱わないため、EMS活動は、紙、ゴミ、電気の削減だけでよし、としている組織も少なくありません。しかし、これが果たして、自然環境にとって、組織にとって、有意義なことといえるのでしょうか。
本章では、EMS活動を、紙、ゴミ、電気の削減だけから一歩踏み出すためのヒントを提供したいと思います。
まず、EMS活動の基本を、次の3つ言葉により再認識してみましょう。
(1) 『宇宙船地球号』
(2) 『Think Globally , Act Locally』
(3) 『3R』
私たちの営みの全ては、この地球上で行われていますが、日々の生活や仕事の中で、そのことを意識することは殆どありません。『宇宙船地球号』という言葉は、とてつもなく大きな宇宙空間では、小さな存在でしかない地球で、私たちは、限られた資源による営みをしているに過ぎないことを、改めて気づかせてくれます。
「Think Globally , Act Locally」とは、「地球規模で環境問題を考え、その問題を自らのこととして捉え、足元から行動する」ということを表し、環境への取り組みをする上で、基本的な活動指針といえます。
環境問題への取り組みは、世界的なレベルから、国、地方公共団体、企業、個人の活動に至るまで様々な活動から成り立っています。
以前、どこの国かは忘れましたが、テレビの人気番組の中で、無駄な灯りを消すことを呼びかけたところ、その直後に火力発電2基分の使用電力が減ったとの記事を読んだことがあります。この事例は、一人一人の行動が、環境活動の成果に結びつくことを実証したものといえます。
第2章で、QMSは『成果が大切』という考え方について説明しましたが、EMSでも同様に、要求事項に適合することは手段であって、EMS活動は、環境保全という成果に結びつけなければ意味がありません。一人一人の行動が、環境活動の成果に結びつくことを考えれば、一つ一つの組織のEMS活動は、より大きな成果を生み出さなければなりません。
読者の皆さんは、すでにご存じのことと思いますが、『3R』とは、『Reduce』(発生抑制)、『Reuse』(再利用)及び『Recycle』(再生利用)をいい、併せて、この順序で検討することも表しています。
筆者は、コンサルティング活動や講演などの席上で、『3R』に『I』を加えた、『3R+I』の活用を提案しています。『I』とは、『Increase』(増やす)の頭文字から取ったもので、『3R』が主にゴミの発生など、環境に良くないことを抑制する処置であるのに対し、『I』は、環境に良いことを促進することをいいます。『3R』は、環境への悪影響を減らすことから生まれた発想であり、どちらかというとマイナス思考になります。サービス業において削減できるものといえば、紙、ゴミ、電気くらいしか、すぐには思いつきません。サービス業のEMS活動が、一歩踏み出せない理由は、『3R』のマイナス思考が影響しているのかもしれません。
一方、『I』は、プラス思考で、環境に良いことをどんどん増やすことを考えていきます。増やすことに、殆ど限界はないので、EMS活動が行き詰まることはありません。
日刊工業新聞社 「ISOマネジメント」誌 2009年10月号 特別記事
「製造業の営業・販売とサービス業に活かすためのISO -第3章 そっと優しく環境に-」より
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