今回は、社団法人日本農林規格協会『JAS情報』誌2010年2月号 PDCAあれこれ〈その5〉 から紹介いたします。
今年、熱田神宮に初詣に行った帰りに、近くのうなぎ料理店H店で『ひつまぶし』を食べました。『ひつまぶし』は名古屋発祥の鰻料理で、『うな重』と兄弟のような料理ですが、『うな重』とは次の点が異なります。
そして、『うな重』との決定的な違いは、食べ方の手順が決められていることです。各テーブルの上には、メニューといっしょに『ひつまぶし』の食べ方が書かれた紙(手順書)が載っています。
他人に迷惑をかけない限り、自分が注文した料理の食べ方は、個人の自由に任せられるはずですが、『ひつまぶし』を注文した客は、皆、「ひつまぶしのお召し上がり方」という手順書に従って食べています。
製造業で、手順書を作成しても、作業者がこれを読まない、その手順を守らないなど、管理者の悩みを聞くことがあります。強要されていない手順書を自発的に使い、『ひつまぶし』を食べる客の姿に、製造業において上手に手順書を管理するヒントがありそうです。
今回は、業務で使用する手順書を管理するためのPDCAについて考えてみます。
・・・中略・・・
ここで、話題を『ひつまぶし』に戻します。『ひつまぶし』を食べる客は、なぜ手順書を頼りにするのか、その理由について考えてみます。
1.『ひつまぶし』は毎日食べない
『うな重』を毎日食べる人がいないように、『ひつまぶし』も、家庭料理としてではなく、外食で摂る料理の一つです。名古屋近辺に住んでいる筆者でも、年に数回しか、食べることはありません。中部圏以外の地域に住んでいる人にとっては、『ひつまぶし』を食べる機会は更に低くなると思います。
たまにしか食べない料理だから、手順書を参考にする。これが一つ目の理由といえます。
2.手順通りに食べると、いいことがある
1.と関連しますが、『ひつまぶし』は食べる機会が少ないので、失敗は避けたい。つまり、手順に従えば、間違いなく、美味しいものが食べられる。という心理状態が働いていると推察されます。更に、敢えて人とは違う行動で目立つことを嫌う日本人気質も、皆、手順通りに食べていることに影響しているのではないでしょうか。
3.手順の内容が分かり易い
「準備、一膳目、二膳目、三膳目、四膳目」という、箇条書の説明。「お櫃の中を十文字に四等分」にという具体的な説明。手順書に記された説明には、利用者(客)に、分かり易くするための工夫がされています。
これらを参考して、企業で使う手順書を作成するときのポイントは、次の3つと言えそうです。
①頻度の少ない作業には手順書が必要である
②失敗が許されない作業には手順書が必要である
③手順書は読み手にとって分かり易い内容にする
これらのポイントは、「手順書を作成するためのPDCA」において、Planの段階における「①手順書を作成する目的の明確化」、「②手順書を作成する範囲の明確化」、「③手順書の項目の選定」とDoの段階が重要であることを示唆しています。
『ひつまぶし』に学ぶのは、手順書の管理の秘訣だけではありません。前述のH店は『ひつまぶし』を発案した店で、正月はもちろん、平日でも、『ひつまぶし』を目当ての客で行列ができるほどの人気です。いったい、この『ひつまぶし』の人気の秘密はどこにあるのでしょうか。
『ひつまぶし』が『うな重』から、姿や形を少しばかり変えただけでは、このようなヒット商品にはならなかったはずです。筆者はヒット商品のカギが、ここでもまた「ひつまぶしのお召し上がり方」という手順書にあると考えています。モノ(料理)と方法(食べ方)の双方を合わせて商品としたことが、『ひつまぶし』と『うな重』との差別化に繋がり、更に、薬味とだし汁を使う食べ方を明示したことで、一品の料理を三種類の料理に変えてしまう魅力を引き出したのです。
新製品の開発は、難しいと嘆いている開発部門の皆さん、ヒット商品の開発に、この事例から学ぶことがあるのではないでしょうか。
社団法人日本農林規格協会 「JAS情報」誌 2010年2月号
「PDCAあれこれ 〈その5〉 -業務で使用する手順書を管理するためのPDCA- より
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