このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
第3話 「運動会でビール」
私が子供の頃は、運動会は秋というのが定番でしたが、最近では5月に催すことが多いと聞きました。そこで、ISOアラカルト第3話は、運動会にまつわるエピソードをご紹介いたします。
今から25年前の話ですが、私は、赴任先の地で町内会の役員を務めたことがあります。町内会の役員の仕事は年間の様々な行事を運営することですが、その中で最も大きな行事といえば地域の運動会です。役員になって、初めて参加した地域の運動会は、その規模の大きさに対する戸惑いと、慣れない役割をこなさなければならない責任感で、訳も分からず右往左往していました。午前中のプログラムが無事に終わり、昼食のお弁当を食べようとしたときです、知り合いの人から、ご苦労さんと缶ビールが差し出されました。周りを見てみると、すでに、皆、おいしそうにビールを飲んでいました。私は礼を言い、一気にビールを飲み干しました。そのときのビールがおいしかったこと、今でも忘れません。それ以来、地域の運動会、学校の運動会など、運動会と名の付く催しには、必ずビールを持参するようになりました。その為に、わざわざビールを保冷するためのクーラーボックスを購入するほど、念の入れようでした。
数年後、私は、親しんだこの地を離れ、他の地域へ引っ越しました。そして、新たな地域における学校の運動会に、いつものようにビールを持ち込み、昼食の時に飲んでいると、何故か、周りから冷たい視線が注がれているのを感じます。気にはなりましたが、何はさておき、ビールを飲みました。後日、近所の人から運動会でビールを飲んでいる不謹慎な人がいると噂になっていると聞いてびっくり。しかし、冷静になって振り返ってみると、周りにビールを飲んでいる人はいなかった気がします。また、学校の催し物にアルコールを持ち込むことが不謹慎であるということも何となく解るような気がしました。そこで、学校の運動会ではだめでも、今度は地域の運動会はどうか、確認することにしました。地域の運動会の当日、昼食の時間になったとき、周囲を観察すると、やはり、誰もビールを飲んでいません。ここで初めて、私は、運動会でビールを飲むのは、前に住んでいた地域だけの習慣であり、世間一般には、この習慣は、認められていないことに気が付きました。
このようなことがあってから、我が家では、「運動会でビール」は、ことわざでいえば、さしずめ「井の中の蛙大海を知らず」、つまり知識や視点のきわめて狭いことの意味で使っています。
企業活動においても、日頃の業務に追われていると周りが見えない、自社の常識が一般の常識から外れていることに気づかないなどということがあります。社会的な問題を引き起こした企業の中には、マスコミなどに問題を取り上げられて、はじめて、自社の行為が世間一般では許されないことであったことに気づいた企業が少なくないのではないでしょうか。品質マネジメントシステム(QMS)は、内部及び外部の視点によるチェックを有しており、使い方次第で、自社の問題に「気づく」ために有効に働くツールとして活用できます。
日刊工業新聞社 「ISOマネジメント」誌 2008年10月号 特集記事「組織を活かす、QMSを活かすための技術・技能の伝承」より