このページは、私が執筆した記事や講演会で伝えたメッセージから拾い出し、「ISOを上手に使おう!」と考えていらっしゃる皆様へご紹介するページです。このメッセージは、毎月(月始めに)更新いたします。
今回は、日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌の2013年8月号に掲載した特別記事「QMSのマンネリを打破する!」(後編)を2回(第74話~第75話)に分けてご紹介します。
ISO 9001「8.5.1継続的改善」の主な要素は、是正処置及び予防処置です。そこで、これらの活動以外の改善活動について、次の事項について、現状を確認して下さい。
是正処置は不適合の原因を除去する処置であり、予防処置は起こりうる不適合の原因を除去する処置で、いずれも、不適合の存在、または、その発生の可能性があって始めて、行われる処置と言えます。
うがった見方をすれば、これは、不適合がない、又はその予兆がなければ、改善は必要ない、とも受け取れます。実は、マンネリに陥っている企業には、このように考えている企業が少なくないのです。
認証機関が行う審査では、不適合が顕在化したとき、又は、潜在的な不適合が明らかになったときに、その処置をすれば、適合と判定されます。
しかし、それは、単にISO 9001の要求事項を満たしていることだけにすぎません。実際の企業活動では、現状に甘んじることなく、更なるレベルアップを目指す改善活動が必要ではないでしょうか。
その活動が、課題達成に向けた改善です。ここで言う「課題」とは、現状を打破するための目標を達成するために、新たな方法を創造する活動を指します。課題達成に向けた活動は、課題達成型のQCストーリーが参考になります。
日本の品質管理手法には、問題解決型と課題達成型のQCストーリーがあり、両者の活動の進め方を(図5)に示します。両者の最も大きな違いは、ステップ2~5にあります。問題解決型は、現状レベルと目標レベルのギャップを把握し、
既存の方法により、そのギャップを埋めていきます。一方、課題達成型は、現状を打破するための目標を設定し、その目標を達成するための新たな方法(方策)を立案し、最適策を講じることにより、課題の達成を図ります。
イノベーションは、現状に異議を唱え、それを変えようとする活動です。イノベーションは、活動に際して、敢えてリスクを厭わず、目標の達成に向けて、試行錯誤を繰り返して、活動することも少なくありません。
QMS活動は、現状を肯定し、リスクを回避するために必要な手順を定め、この手順通りに実行することが基本であり、一見、イノベーションはQMSと真逆な活動に映ります。
しかし、QMS活動において、製品、プロセス、システムなどの見直しに迫られたとき、これを抜本的に改善するためにはイノベーションが必要となります。
そのときのために、イノベーションにとって必要な要素をQMSに取り入れておく必要があります。
「イノベーションのDNA」(参考文献3参照)によれば、イノベーションには、イノベーションに取り組む勇気、行動スキル、認知的スキルを、必要な要素として挙げています。
行動スキルは、現状に異議を唱える質問力、顧客、製品、サービス、技術などを注意深く見極める観察力、多様な考え方をもつ人達との幅広いネットワーク力、
自ら立てた仮説を検証する実験力により構成され、これらが、革新的なアイディアを生み出すカギであると言います(図6参照)。QMS活動では、これらの要素の内、質問力、観察力、実験力については、
必要な力量を持たせるための教育・訓練プログラムを策定する、ネットワーク力については、幅広い人達と情報交換ができるコミュニケーションの構築をすることで、QMSの中に、これらの要素を取り入れることが可能になります。
マネジメントレビューをマンネリ打破の目の付け所の最後にもってきたのは、それなりの理由があります。その理由は、次の質問の後で述べるとして、まずは、マネジメントレビューの現状について確認をして下さい。
マネジメントレビューは、月次に実施している経営者会議とは全く別物として扱っている企業が少なくありません。
その理由として、一つは品質マネジメントシステムの「品質」という言葉から生じる誤解、もう一つはISO 9001「5.6.2 マネジメントレビューへのインプット」の要求事項に基づく誤解を挙げることができます。
前者は、「品質」という言葉から、QMSが「製品の質」を保証することに限定した仕組みであるという誤った認識により、QMSを事業活動とは分けて扱うことを指します(図7参照)。
QMSは、製品を保証するため、また、顧客満足を向上するための「業務の質」に対して規定するものであり、事業活動に包含されるものと言えます。
後者は、マネジメントレビューへのインプットには、監査の結果、顧客からのフィードバック、(以下、省略)などを含めなければならないため、経営者会議で扱うレベルの内容ではないと判断され、
そのため、取って付けた様なマネジメントレビューを行っているようです。それでは、マネジメントレビューへのインプットから視点を変え、アウトプットに目を移しみると、
そこには、トップがQMS、プロセス、製品の改善、そして、資源の必要性に関する指示を出す場であることが分かります。まさに、マネジメントレビューは、事業活動における経営者会議の場であると言えるのです。
マネジメントレビューは、ISO 9001の要求事項に適合させるために、形式的に行うものではありません。経営会議のような実効性のある場で、事業活動とリンクして行わなければならないのです。
筆者は、QMS活動がマンネリに陥っている企業の多くは、QMS活動に対するトップの関与が希薄であると感じています。
ここで、QMSがマンネリに陥っているある企業の管理責任者のA氏から相談を受けたときの様子を再現してみます。
「社長はQMSに全く興味を示されないのですが、そうかと言って、QMSをやめろとも言わない」「社長の真意が、分からないのでどうしたら良いでしょうか」
当該の企業のQMS活動を知らず、社長との面識もない筆者は、前述した(図3)及び(図4)を用い、A氏に一般的な回答をしました。
そのときの回答のポイントは次の通りです。
◇社長は、企業を存続させるための責任がある
◇企業を存続させるためには、例えば、利益を増やすことを考えなければならない。
◇社長は、利益を増やすための実効性はQMSにはないが、認証を維持することでイメージアップに繋がると思っている
そこで、筆者は、当該の社長がQMS活動の是非について悩んでいると推察したのです。
そして、社長がQMS活動を続け、更に、これに積極的に関与してもらうための秘策をA氏に告げました。
◇事業活動とQMS活動は、繋がっており(2章(2)参照)、QMS活動は事業活動の一部であることを説明する。
◇データ分析の結果を基に、QMS活動が会社の利益増に貢献していることを実証する
社長は、企業の存続に係わる責任と権限を有します。社長が事業活動にプラスであると考えていれば、積極的に参加するはずです。
しかし、QMSが事業活動に役立っていないと判断しているのであれば、その認識が変わるようにしなければなりません。
もし、本当に役立っていないのであれば、その枠組みを見直す。
一方、QMSが事業活動に役立っているにも係わらず、社長の認識不足であれば、データでその有効性を示し、誤解を解くことが必要なのです。
前編では、本年4月に創立30周年を迎えた東京ディズニーランド(TDL)の取り組みを紹介しました。TDLの取り組みは、QMSのマンネリ打破のヒントになると考え、QMSの関連する箇条(図2参照)を取り上げ、前編と後編にわたり、QMS活動の見直しのポイントについて述べてきました。
顧客満足に必要な要素を常に見直し、成長するTDLにはマンネリはありません。その根本的な考え方は、「ディズニーランドは、永遠に完成することがない」と言ったウォルト・ディズニーの言葉にあります。
この言葉を借りて、QMSのマンネリ打破のキーワードとすれば、「顧客満足の向上を追求しつづけるQMSは、永遠に完成することがない」
更に、「QMS活動は、要求事項に適合するための活動ではなく、顧客満足の向上を達成するものである」
QMSは、規格の要求事項の枠を超え、顧客満足の向上を図るためのツールなのです。また、このツールは、事業活動の発展にも必ず活かすことができるものと確信します。
(参考文献1)日本経済新聞 朝刊2013年5月20日付け ビッグデータ 変わる企業
(参考文献2)日科技連 「課題達成型QCストーリー」 狩野紀昭 監修
(参考文献3)(株)翔泳社 「イノベーションのDNA」 クレイトン・クリステンセン他
日刊工業新聞社『ISOマネジメント』誌に掲載した特別記事「QMSのマンネリを打破する!」 2013年8月号より
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